箱入り娘」的な使い方ではあるが、最近出番が増え始めたM9。どうしても好きな風景写真ではニコンの出番が圧倒的だが、少し違う目で見てみようという時、M9は登場する。
M9は最近ファームウエアーのアップデートも行われてバージョン1.138となった。しかし相変わらずいくつかのプログラム上のバグが散見されて,撮影現場での即戦力としての信頼感に欠ける。ホント何時になったら完成するんだ,と言いたくなる。サクラダファミリアみたいに完成予定はない,という答えかな?
ホワイトバランスの不満はもう諦めた。マニュアルでやる,と決めたからもういい。しかし、電源オンにしてすぐにシャッターが降りないのには参る。瞬間を切り取るスナップシューターたるM9がこれではいきなり意欲をそがれる。常時電源はオンにしておけ,という事か?バッテリー消耗の早さは横に置いといて...か。
液晶モニターでの画面チェックで、拡大再生時に、十字バーで画面上をスクロールすると,スクロールされずに画面が替わってしまう。しかもギザギザモザイク模様! 常時発生しない所がソフトバグなのか回路の問題なのか。新しいファームウエアーでも直ってない。ううん...
プログラマブルな所にまだまだ問題が残っている。ライカ社の光学カメラメーカーからの技術的なリソースシフトがまだ進んでないことを伺わせる。超高級カメラだというのに...日本製のコンパクトデジカメに完全に負けている(同じライカでもライカV-Luxシリーズはパナソニック製なのでこうした問題はない)。
ところが、最近この「箱入り娘」M9のレンジファインダー像の無限大ピントがズレているのを発見した。遠方の建物のアンテナを見ると左右に像がズレているではないか! 中古のM3やM4では時々この不具合が出たが、いずれも中古カメラ店での調整で完治した。 しかし、最新のデジタルM9でもこのような問題発生に愕然。しかも先述のように、大事に大事に真綿でくるむようにして使っているM9のレンジファインダーが狂っている...
冷静に考えてみると、これはデジタルか、フィルムかとは関係ないことだ。そもそもレンジファインダーの構造は、装着したレンズの距離リングをまわすことによってレンズ後端にあるカムの傾斜が、ボディー側のコロを回転させながらアームを前後させファインダーの二重像を合致するように調整する、というもの。したがって衝撃に弱いのは事実。
この方式は革命的な距離連動式ファインダーを導入した戦前1930年代のエルンスト・ライツ社のバルナックライカから変わることなく継承されている伝統技術なのだ。これはこれで凄いことだ。この技術でどうしてもライツ社に勝てなかった日本のカメラメーカーが戦後一眼レフに転向して世界を席巻することになった話は有名だ。
しかし,この機械的なメカニズムでレンズの距離情報をボディー側の光学ファインダーに伝達する、という20世紀的な技術革新が、画像の処理を撮像センサー上でソフトウエアーで行う21世紀的な技術革新と同居している所がまた凄い。デジカメになってもライカMシリーズのアイデンティティーのようなものだ。これをなくしたらライカじゃないんだろう。
かつて光学カメラメーカにとって光学ファインダーの優秀さが大きな技術/製品の差異化要因だった。ライカのレンジファインダーしかり、ニコンの一眼レフファインダーしかり。しかし、最近のデジタルカメラは次第に,光学ファインダーを不要にしつつある。コンパクトデジカメでは既にファインダーは省かれているが、ハイエンドのデジタル一眼レフからも取り除き、コンパクトで取り回しの良いボディーづくりが主流になりつつある。美しい光学ファインダーから覗く像のワクワク観は過去のものになるのか。これは単なるノスタルジアの問題なのか?
話を戻して、この伝統の距離計連動レンジファインダーを構成する部材を見てみると、コロは偏芯構造となっており、V字型のアームの先端に取り付けてある。これをレンズ側のカムが押すわけだから、経年的に、あるいは外部からの衝撃によっては当然コロの偏芯軸ズレ、あるいはV字型アームの変形が起こりうる。そうすると距離計にズレが発生する訳だ。
コロはマイナスネジで固定されていて、調整メンテ出来るようになっている。一方、V字型アームは堅い金属固型の部品で調整出来ないが、力を加えると比較的容易に変形しそうだ(Vの角度が変わる)これじゃあ狂いがちだよね。
実際、このM9のコロとV字アームをいじっていると,いつの間にか無限大ピントズレが直っている。驚きだ。
いや構造を知るとビックリはしないが、こんな程度のモノかという驚きが。
これで一件落着!、なわけはない。また何時狂うかわからないという事だ。ううん、何とも悩ましい仕掛けだ。M3やM4の時もバルナックの時も調整に出した記憶があるが、M9になってもおなじかあ。この問題は解決してないんだ。
金属部材の精密なリンケージによるメカニカル距離計連動ファインダー搭載、という、当時のカメラの常識を破壊したこのライツ社家伝の「破壊的イノベーション」も、さすがにもはや精度確保の限界を越えることは出来なくなっているのだろう。
やはりM9はライカだ,とあらためて実感した。けっしてがっかりしてはいない...と,自分に言い聞かせる。
デジタル技術に接ぎ木したメカニカルなこの仕掛けに付き合っていこう、と。イノベーションのジレンマを実体験する良い教材としても... それは納得出来る言い訳かもしれない。
(参考)
Disruptive Innovation and The Leica History.
Leica Cameras in Deep Trouble.
http://www.slideshare.net/Christiansandstrom/leica-cameras-in-deep-trouble-presentation?type=powerpoint