2012年2月20日月曜日

Fujifilm-X Pro 1 遂にゲット!

 予約しておいた富士フィルムの新デジタルカメラ、X-Pro 1とレンズ三本(18mm, 35mm, 60mm)とグリップが、2月18日の発売日に送られてきた。久しぶりに物欲煩悩を激しく刺激する新ジャンルのカメラが、富士フィルムから出された。これまでのX100やX10とのシリーズ性を主張しつつも、撮影に本気出させる本格的な道具へと進化したシステムカメラの登場だ。ボディー、レンズ全てに誇らしげにMade in Japanの刻印があり、それが高品質、高品位を示すブランドになり、商材としても高い付加価値を生む事を証明しているのがうれしい。

 まず,開封。最初の印象。「デカイ!」 X100より一回りくらい大きいのかな?と思っていたが、チョットした一眼レフ並み、あるいはライカM9並のボディーサイズだ。いわゆるミラーレス機サイズを想像していたら,大きく期待を外される。実際、富士フィルムはこれをミラーレス機とは称していない。レンズも鏡胴が太くてまさに一眼レフ並だ。

 そのファーストインプレッションの衝撃は、ライカM5が発売された当時に,保守的なライカユーザがM3サイズを想像していたのに、そのサイズに裏切られた、と大騒ぎしたのに近いくらいのインパクトかもしれない。しかし、Xシリーズはこれでむしろ丁度手になじむ本格撮影機材となった感じがする(ライカM5も一番手になじむボディー形状だが)。

 今の日本製のコンデジやミラーレス機は、正直言って小さすぎる。扱いづらい。思いもかけずへんなボタンに触ってしまって,誤作動させたりしがちだ。カメラというものは両手でしっかりとホールドして撮影する道具のはずだから、極小化を目指す必要なんてないのに、やたらに軽小短薄を競って、世界最小、とか、歴代最軽量、とか、薄さを極限まで追求、だとか、余計な競争しなくていい。あげくにSonyのNexシリーズのようにボディーとレンズがアンバランスなデザインになったりする。道具はその適切な「形」が命なのだ。個人的には、程よい握り心地の大きさで,ずっしりした手応えのあるカメラが好きだ。

 少し気になる点は、スイッチオンで働くプレAFが、一生懸命ピント合わせようと、ギコギコ絶えずレンズを前後させる音(と,思ったら、絞り羽根を自動調整する音も重なっていた)。静かな所では結構耳につくだろう。全般にレンズの駆動音は大きめのようだ。

 ところでX-Pro 1はミラーレス機(そもそもこの定義もはっきりしないが)なのか?富士フィルムはそうでは無い,としているが、それではなんなんだろう。もちろん一眼レフ機ではない。じゃあ、レンジファインダー機か?まあ,カメラの分類学などどうでも良いのだが、敢えて言えば、ライカMシリーズのような古典的なレンジファインダー機のスタイルを継承した、あたらしいハイブリッドファインダー機かな?

 デジカメになってファインダーの存在意義が薄れてきた,という人がいるが、やはりキチッとした見えの良いファインダーは、写欲を増進するし、感性を刺激する重要なデバイスだ。そういう意味でミラーレス機が、一眼レフから文字通りミラーとプリズムファインダーとを取り除いたシロモノだとすると、なにかカメラから大事なものが無くなったような喪失感を感じてしまう。しかし、電子撮像センサー導入で、光学ファインダー(かなりコストのかかる仕掛けなので)省略が可能となり、大幅なコストダウンを実現したのも事実だ。

 一方、ライカMシリーズのような光学レンジファインダーカメラは、その完成度の故に(今でもライカM9は20世紀の技術をそのまま搭載している)、日本のカメラメーカーがとうとう追いこせなかった。したがって一斉に一眼レフに転換した歴史が示すように、ライカの独壇場だ。しかし、その見え方は職人芸並の美しいものではあるが、いかんせんデジタル時代には古くなってしまった技術だ。パララックス(視差、すなわちレンズ位置とファインダー位置のズレ)は欠点だし、レンズ交換毎に光学式のフレームをファインダー内に浮き立たせる仕掛けは、20世紀中葉当時は素晴らしい発明であったが、厳密なフレーミングは一眼レフのそれにはかなわない。

 そこで登場したのが、この富士フィルムのハイブリッドファインダーだ。光学式ファインダーの、美しく写欲を刺激する見え方と、正確なフレーミングで多様な撮影情報を表示出来る電子式ファインダーの両方を、一つの窓に切り替え表示する事により、20世紀的感性と21世紀的革新性を両立させる事に成功したのだ。これはすごい発明だ。日本の技術の素晴らしさを再認識させる画期的な発明だと思う。

 このX−Pro1は、ライカM9のような、伝統の光学技術を駆使したレンジファインダーと,デジタル撮像センサーを組み合わせた、いわばデジ/アナ混合カメラの将来形を指し示すカメラとなっているような気がする。次のライカM10は、光学ファインダーを捨てるのか。あるいはハイブリッドにして、ライブビューまで取り入れたカメラとして出てくるのだろうか。楽しみだが、そんな近未来型は、既に富士フィルムやリコーやソニーが世に出しているので,ライカはやはり最先端よりも伝統にこだわった製品を出すのだろう。ライカの命であるレンズやファインダーなどの光学系技術を最大限全面に押し出すのだろう。光学レンジファインダーは永遠なのかな? あとは価格に見合う価値をユーザーが感じるかだ。

 光学ファインダーと電子ファインダーを切り替えて使うのはX100から承継された技術だが、これにASPサイズのCCDと交換式のフジノンレンズ群を組み合わせる訳だから、かなり本格的な撮影機材に発展したと言える。電子ファインダーの見え方も格段に向上している。光学ファインダー切り替え時にも撮影情報は表示されるし、交換レンズによってフィンダーの画角と視野率も自動変化するなど、インテリジェントで素晴らしい出来だ。アイセンサーも付き、撮影スタイルとしてはレンジファインダー機的にも、背面の液晶でのライブビュー撮影を使ってコンデジ的にも、両方で行けるのが良い。

 同時発売されたフジノンレンズは18mm(27mm相当), 35mm(52mm相当), 60mmマクロ(90mm相当)の単焦点レンズ3本。写りについてはこれから見てみたいが、なぜ定番の35mm相当が無いのか?これはX100を買え、という暗示か?同時にX100ブラック限定モデルを発売し、X-Pro 1との一体性をアピールしていなくもない。もっとも今後、ズームを含むレンズラインアップは増やして行くそうだ。また、ライカMレンズアダプターも発売される。楽しみだ。

 デジタルカメラも、次々とその道具性に磨きをかけた秀逸な製品が増えてきており、銀塩カメラの金属質な手触りにしびれて、なかなかデジカメに移行出来なかった好き者も、そのフィルム感染症の度合いが徐々に薄れつつある。「一生モノ」とまではいかないまでも、かなり愛着の湧く、長く使える道具に進化しつつあるデジカメの世界に期待が膨らむ。

 このカメラからは、「カメラは家電製品ではないぞ」という写真機材メーカー、富士フィルムの強いメッセージが伝わって来る。銀塩フィルムというコア技術で生きてきた会社が、デジタル化に伴う技術イノベーションにより、そのコア技術を捨ててざるを得なくなり,新たなデジタル技術をコアとし、事業モデルを大きく変換させつつある。この辺が、連邦破産法Chapter 11適用、写真部門を閉鎖した、かつてのフィルム写真の巨人、Kodakとの違いだろう。

 5年ほど前、アメリカにいた時、大手光学機器メーカーの技術陣の方にこういう話を聞いた事がある。かつてはカメラメーカーには、カラーマネジメントという技術、ノウハウは無かった。メーカーの優劣は、そのレンズ性能(明るさ、解像度、収差、フレアー等)、シャッター精度(安定走行、高速化)、フィルム走行メカの信頼度、ファインダーの良し悪し、によって決まった。しかし、デジタルカメラ時代に入り、きれいな色味を高精細に出現させるのはフィルムではなく、カメラそれ自体(撮像センサーと画像エンジン)でなければならなくなった。デジタルカメラは、いわばフィルム付きカメラみたいなものなので、かつてのフィルムメーカーの有する基盤技術の中で、もっとも重要な技術の一つであるカラーマネジメント、すなわち「画造り」のノウハウを取得しなくてはならなくなった。そういう意味では、富士フィルムが長年にわたって蓄積してきた、カラーマネジメントノウハウを基盤にデジタルカメラ造れば、おそらく我々にとって脅威になるだろう、と。

Dscf2046
(開封の儀。ファインダーが正面右端に位置しているのはライカと同じ。しかし、光学式ファインダーを使わない限りパララックスの問題は無い。ファインダー左の目玉はAF補助ライトが。暗い所ではかなり明るく照射するので隠し撮りは無理。正面左のレバーは、光学ファインダー、電子ファインダーの切り替え用。)

Dscf2049
(操作ボタン類の配置はX100, X10をほぼ踏襲しているが、新しいボタン設定も増えた。親指位置のホールド感は良くなったが、Qボタンに不用意に触れてしまうことがある。ファインダーの視度補正ダイアルが無くなったのは何故?))

Dscf2060
(グリップとレンズを付けると結構なボリュームのカメラになる。レンズフードは角形。プラスチック製(と思ったら金属製だそうです)。18mmも同じ角形フード。)

Dscf2063
(軍艦部はアナログ的なダイアル配置で感覚的に扱いやすい。プログラムモードでは、シャッタースピードダイアルのA位置とレンズ絞りのA位置をセットする。シャッター速度優先では絞りをAに、絞り優先ではシャッターダイアルをAにセットする。おまかせモードやEXRモードはない。シャッターダイアルには真ん中にボタンがあり,これを押さない限り勝手に動く事は無い。露出補正ダイアルのクリック感はX10の方がある感じ。)