2015年6月14日日曜日

アール・デコ建築の粋 〜旧朝香宮邸の美と技巧を愛でる(第一弾エクステリア編)〜

 
旧朝香宮邸


 東京都庭園美術館と目黒自然教育園。中世の豪族白金長者の居館跡だと言われる広大な杜の中に存在する。今でも敷地内に当時の土塁の遺構が確認できる。都心に残る数少ない緑地の一つだ。そもそも「白金長者」とは誰なのか。その確かな伝承はないそうだが、その割には広大な敷地を残したものだ。白金長者の居館敷地跡はその後、江戸時代には讃岐高松藩下屋敷となる。その名残に大名庭園の池やクロマツの大木が今も残っている。明治維新後は陸軍・海軍のの弾薬庫に、大正時代には皇室の白金御料地となる。そしてその敷地の一部が皇族朝香宮家に下賜された。英国Kentの田舎暮らしで週末の森の散策を楽しみとしていた我が家にとって、東京へ戻ってからの、この「自然教育園」という都会の杜は貴重な空間だった。そして白金迎賓館(「庭園美術館」というより馴染みがある)は知人の結婚式や、夏のプール、お庭での食事など、思い出深いところだ。

 世界に誇るアール・デコ建築の粋を堪能せよ。

 旧朝香宮邸。現在は東京都庭園美術館となっているこの地の圧巻は、何と言っても緑の庭園に広がるアール・デコ建築の邸宅。外見は思いの外シンプル。しかし、一歩玄関を入ると、デコラティヴな別世界。アンリ・ラパンによる内装、ルネ・ラリックのガラス工芸品の数々。一つ一つの部屋は世界中から取り寄せた、拘りの素材、部材を使った装飾芸術でしつらえられている。建築設計は、赤坂離宮など、数々の日本を代表する洋風建築を手がけた宮内省内匠寮。そしてフランス留学していた朝香宮に依頼を受けたインテリアデザイナー、アンリ・ラパンによる内装は、妥協を拒んだ本格的なもの。

 日本人の異文化の咀嚼力の凄さを感じさせられる。趣味の悪いコピーではない。本物を取り入れて日本の風土に同化させるだけでなく、日本古来からの伝統的な技を使って、西欧の技法と素材をうまく日本化している。そして新たな本物にする。古来よりユーラシア大陸の東の端の、文明の終着点の島であった日本。その水の流れの淀みには、様々な文明・文化が融合した堆積物が新たな価値と美を生み出して蓄積されている。それを日本人は咀嚼し、昇華し、自分の物にしてきた。今回は、館内では「マスク」展が開催されていたため、残念ながら建物内部の撮影は禁じられて紹介できない。しかし、そのインテリアのディテールと全体コーディネーションの完成度に、日本という国の海外文化に対するオープンネスと多元的な受容性が凝縮された成果の一つを見る事ができる。

 戦後は、一時吉田首相の仮総理大臣公邸、西武グループへの売却により、白金プリンス迎賓館などとして使われ、1984年に東京都へ売却され東京都庭園美術館として公開されている。2014年リニューアル再オープンした。隣の自然教育園で森のお散歩を楽しんだあと、アール・デコの邸宅でアートな時間を過ごす。目にも鮮やかな緑の芝生庭園を眺めながらカフェで一服する。フランスの田舎ではないが、KentやSussexあたりのManor Houseでの英国貴族の生活を、このせせこましい東京の中で味わえる不思議。なんか素敵な時間と空間だ。


門から玄関までの散策も楽しい



ようやく邸宅の玄関が見えてきた

玄関のラリックのガラスレリーフ
(東京都庭園美術館HPより引用)


2014年オープンの庭園美術館新館


新たにオープンしたカフェレストランで昼食



庭園の芝生が鮮やか
玄関に立つ狛犬
アール・デコとのコラボ
庭園側から見た本館テラス


アジサイの季節だ


大和撫子