2015年11月3日火曜日

Leica SL発表! 〜一眼レフへのリベンジ開始?〜

 



 ついにというか、ようやくというか、ライカが「プロ仕様のミラーレス」(ちょっと形容矛盾っぽいが)SL (Type 601)を発表。11月中旬以降発売だそうだ。その出で立ちはどう見てもデジイチ(デジタル一眼レフ)だが、ライカ社はあくまでも「ミラーレス」だと強調している。一眼レフではないぞ。ミラーがいらない「軽量な」プロカメラだぞと。よほどニコンやキャノンに一眼レフ機で敗れた過去が悔しくて、ようやく時代が巡ってきた、と小躍りしながら「ミラーレス!」と叫んでいるようだ。

 そもそもエルンスト・ライツ社が1954年に発表したの新製品Leica M3の精密なレンジファインダー(距離計連動光学ファインダー)に日本勢は驚愕し、とくにニコンはとてもこれには追いつけないとして、一眼レフ開発に転向したのは有名な話だ。その技術パラダイムシフトがその後のプロ用機材を一変させ、ニコンの一眼レフが市場を席巻し、一眼レフに追いつき追い越せなかった名門ライツ社の凋落の始まりとなった。それだけに一眼レフへの恨みは深い。関ヶ原の戦いで徳川に敗れた毛利、島津と同じ心境だろう。長い雌伏の時代を経てついに歴史的なリベンジの時がやってきた。

 しかし、ミラーレス市場は激戦区。しかも決してライカ社の開発した技術ではないし、むしろ、デジタルカメラ時代に入って一眼レフに代わる(あるいは補完する)カメラとして日本勢各社が競って開発したものだ。SONYなどがハイエンド機を次々と投入するなど先行プレーヤーがしのぎをけずっているので、後発で参入する以上、「ライカならでは」がないと勝てないだろう。その「ライカならでは」がこれまでのようにMシリーズなら独自色が出せるのだろうが。でないとかつてのライカ一眼レフカメラ(Rマウント)の「Leicaflex SL」シリーズと同じ運命をたどることになる。まさか、値段だけが「ライカならでは」じゃあないといいけど。

 ウェブサイトで見る限り「でかい」「重たい」ミラーレスのような。どう見てもニコンD810やキャノン5DIIIクラスの大きさだ。SONYα7シリーズとは比べ物にならない。レンズも新Tマウントズーム(STマウントと呼んでいる)が3本出る。これもとてもでかくて大変そう。中判Sシリーズよりは「小さい」そうな。既存のM/R/T/Sマウントレンズ群もアダプター経由で使えるらしいが、手振れ補正はSTマウントレンズのみとか。ミラーレスというと日本人の感覚では、小型軽量なカメラというイメージだが、ライカ社はそうは考えないようだ。プロ用機材として開発し、なんでもできるデジタル時代のフラッグシップにしようと考えているようだ。SONYもミラーレスを本格的な信頼できる機材へとブラッシュアップしようとしていて、ライカ社もそのコンセプトを追従しているように思える。しかし、違いは、SONYはあくまでも小型軽量を変えない(軽小短薄はSONYのお家芸、いや信仰だ)。

 一方、M Type240は今後どうなる?ライカの看板カメラだから製造をやめないだろうが、デジタルカメラ全盛となり、このままではそろそろレンジファインダー機の限界も見えてきているし、一挙にメインストリームを新シリーズSLへシフトするのだろうか?個人的にはMのハイブリッドビューファインダー(Fujifilm X-Proのような)付きのMaestro III搭載当たりが出ると面白いのだが。光学OVFにデジタルEVFを組み込んだハイブリッドビューファインダーなどは、本来ならばライカ社が開発してしかるべきだったのではないかと思うが、実際には富士フィルムに先を越されてしまった。Mのレンズ資産こそクラウンジュエルなのだから、それを生かしてこそライカだと思うと残念だ。

 ライカ教の御神体はあくまでレジェンダリーMだが、SLは新たな実用デジタルカメラとしてもう一本の柱を立てようというのだろう。そして新しいズーム、AFレンズシリーズをラインアップしようという考えなのだろう。これまで2006年のM8に始まり、かなりデジタル化技術のキャッチアップで苦労してきたライカ社だが、パナソニックとの協業の成果もこれあり、ようやくLeicaQでかなりデジタルカメラとしての完成度が上がった。だから期待してる。ただ、普通じゃ嫌ですよ、ライカなんですから。新たなレジェンドを作り出してもらいたいものだ。

 (追記)
 エントリーレベルミラーレスと位置付けられているLeicaTのファームウェアーがver.1.410にアップグレードされた。これまでTはそのポルシェデザインチームとのコラボレーションによる斬新なデザインと、タッチスクリーンを生かした革新的なユーザインターフェースを導入するなど、新しい軽量ミラーレスシリーズの登場でファンを大いに興奮させた。しかし実機を手にしてフィールドへ出てみると、起動の遅さ、AFの遅さ、せっかくのユーザインターフェースもレスポンスが悪く、サクサク感がない、など、全般にパワー不足のスローなカメラだったということでがっかりしたファンが多い。これならもっと価格が安くて高性能な日本製の方が良かった、と。「ポルシェのボディーにポロのエンジン」状態であった。

 今回のファームウェアーでは以下の点が改善されたという。
1)起動時間の大幅向上(ついでにM Type 240の起動時間も改善してほしい!)
2)AF速度の大幅アップ(2倍?)。
3)タッチスクリーン操作のレスポンス向上(3倍?)。
4)新SLレンズ対応
5)その他のバグ修正。

 なるほど、評判の悪かった点に手が加えられ確かにレスポンスは改善された。一見別物になった感もする。これなら使える。しかし、嫌味な言い方で申し訳ないがこれで「普通になった」に過ぎない。SLがこのTマウントを採用することとなった(新たにLマウントと称す。これまでのTはTLマウントと称するそうだ)のに合わせてアップグレードしたのだろうか?しかしなぜ最初からこれくらいの性能を保証できなかったのか疑問は残る。そうすれば中古ショップに在庫の山はできなかったのではないか。ライカといえどファンの目は厳しい。特にエントリークラスならなおさらだ。







(掲載の写真はライカ社ウェブサイトから引用)




 (その後)
 11月6日、日本でもローンチイベントが行われた。これには行けなかったが、11日から各ライカショップで実機展示が始まったので触りに行ってきた。その感想。

 まず、ミラーレスのイメージで不用意に手に取ると手首を捻挫(!?)する。やはりでかくて重い。しかしボディーは思いの外薄く、グリップは思いの外厚いのでホールドは良い感じだ。手にした質感は非常に良い。アルミ削り出しボディーはソリッドで信頼感が伝わってくる。やはり何と言ってもレンズ(24-90mm標準ズーム)が大きくて重い。MやRレンズ装着すると軽快で取り回しが良いのだが。ニコンの標準ズームより一回り大きく長い。望遠端が90mmまで伸びたのは嬉しいが、その分大きくなったのだろう(f.2.8通しにしていたらさらにでかくなっただろう)。しかし、ボディーに装着したバランスは悪くない。実は本格的に撮影する気ならそれなりの重さとバランスと質感が必要だと、普段から自分自身言っていたことを思い起こした。「ミラーレス」という言葉に惑わされてはならない。感覚的にはプロ仕様の「デジイチ」(ライカは絶対に一眼レフではないと言い張るし、確かにミラーレスなのだが)カメラであると捉えるべき作りになっている。以下に幾つか気づいた点を書き出してみた。

1)EVFファインダーは明るくて視野率も高くて見やすい。これが売りのようだ。
2)ボタン操作はこれまでのニコンやキャノンのそれとはかなり異なり、慣れが必要。よく使うISO,WB,ドライブモード、露出補正はボタン割付しておく必要がある。
3)相変わらず露出補正(私のこだわり)のプライオリティーが低く、メニューから呼び出しておいてボタン割付できるが、いざ使う段になると「ボタン長押し」しないと機能しない。これまでどおりマニュアル撮影優先思想なのだろう。AEになっても妙なところにライカはこだわる癖がある(Mも後になってファームウェアーで改善された)。
4)MレンズやRレンズ使用(アダプター経由で)は快適に行える。むしろこの方がバランスが良い感じだ。ただし手振れ防止は機能しない。
5)MFアシスト機能について、ピント部拡大は左下のボタンを押すとできるが、このボタン位置は如何なものか。左手でレンズ鏡胴部でフォーカシングしながら、左手で同時にボディー背面のボタンを押すのは至難の技。そもそもMのようにフォーカシングとともにオートでズームップするようにしてほしい。今後のファームウェアーで改善されることを期待する。
6)DNGで撮影した画像を液晶画面で再生し、拡大表示すると解像度がえらく悪いのはなぜ?JPGの場合は問題無いが。
7)SDカードスロットは二つ。一方はUHS-II対応。二枚目をバックアアップ用に指定することができるが、RAWとJPGに振り分けることはできないという。ショップの人に聞くとは「ニコンにはそんな機能があるんですか?」とビックリしていてビックリ!

全体的に連写はじめ、レスポンスが向上した。これならストレスなく使えそうだ。価格以外は... 機能もライカらしくなくテンコ盛りだ。AF合焦速度は早くなったが、条件によっては考え込むことがある... あと問題は写りだ。いよいよライカも新しいパラダイムを開いたようだ。おおいに期待したい。

その後:
早くもファムウェアーアップデート(ver.1~ver.1.2)
一番の操作性向上は、上記5)でコメントしたMF時のピント部拡大。ジョイスティックプッシュで拡大できるようになった。

先日ライカジャパンに、前述の使用上の改善要望(露出補正操作の簡易化、DNG再生時の拡大解像度の問題、SDカードスロットをDNG/JPGに分けること)をメールした。
その回答は、概ねポジティブなもの。同様のコメントが他ユーザからも寄せられているようだ。ドイツの開発部門へフィードバックするとのことであった。

その後第二弾:
2016年4月15日、ファームウェアーアップデート(ver.2)
ついに露出補正をダイレクトにダイアルでできるようになった。そして、DNGで撮った画像の拡大表示の解像度が改善された。他にも、AF速度の改善、ほかの修正が行われた。しかし、せっかく2つあるSDカードスロットの利用改善(DNGとJPGを分けて記録する)は入ってない。