2019年10月27日日曜日

SIGMA fp + 45mm 1:2.8 DG DN 〜久しぶりにワクワクするカメラが登場!〜

 シグマという会社は面白い。昔はニコンやキャノンなどの純正レンズに比べて廉価で入手しやすい交換レンズ群を提供するサードパーティーレンズメーカであった。ライカの一眼レフRシリーズ向けにズームレンズをOEM供給してきたメーカーとしても知られている。悪いが、これまであまりハイエンド製品を提供するメーカーとのイメージはなく、我々のようなカメラ好きだがお金のない学生や、ニコンには到底届かないアマチュアカメラマンに、安い交換レンズを提供するメーカとの理解であった。ところが最近はニコン、キャノン用だけでなくミラーレスのフロントランナー、ソニーアルファシリーズ向けに個性的な高品位レンズ Artシリーズなどを次々に出している。さらにライカ社のLマウントアライアンスに参加し、低廉な普及型製品から高品位製品へとシフトしている。あまり公表はされていないがライカ社との長年の提携関係があり、ライカ社の最近のレンズ設計、製造にはシグマの参加があると言われている。技術的にはそれだけの実力を有する会社なのだ。デジタルカメラも製造しておりユニークな製品がラインアップされている。本社は神奈川県川崎であるが福島県会津に工場がある。コストダウンのために製造を海外に出すオフショアーをやらず、日本で開発、製造することにこだわる。

 そのシグマから最近発表されたのが、このSIGMA fpとLマウントレンズSIGMA 45 mm f.2.8 DG DN Contemporary だ。ついに今月25日に発売となった。pfはフルサイズセンサーミラーレスとしてもっともコンパクトなカメラとなった。小さくても金属の塊の剛性感あるボディー/鏡胴でズッシリとした手応えだ。そのスクエアーなフォルムは、シンプルであるがむしろ個性的だ。とても万人向けのカメラではないだろう。おそらく量販店やネットショップの人気トップ3に入ることはないであろう。レンズはライカLマウント。こんなカメラが堂々と企画され、発売されカメラ好きの手元に届くようになったことは嬉しい。ライカのLマウントライアンスに参加しているので、レンズ、カメラともLeica SL, CLシステムと互換性がある。もちろんパナソニックLumix Sとも。

 このカメラ、レンズともに全てMade in Japan。最近希少となった感がある国産だ。ニコンもキャノンもソニーもハイエンドカメラでも裏を見ると中国やベトナムやタイ製。量産品は企画、設計は日本でも、製造、組み立てを海外にオフショアーしてコストカットする。しかし、人件費が跳ね上がりコストメリットがなくなった中国からChina plus OneでASEAN諸国へのシフトが進んでいるが、そろそろきちんとした信頼感の高い造りの「日本製」が、多少コスト高でも良いという人が増えている。中国人は日本製を選んで買ってる。このシグマのこだわりはその先取りだろう。Made in Japanは高品質、高品位のブランドになっている。もう一つ量産品の気に入らない点はエンジニアリングプラスチックの多用だ。かなりのハイエンド機でも軽くて丈夫、安くて、経済合理性は抜群の化成品素材を多用している。実用的なのだが、お道具感に欠けるので個人的には食指が伸びない。この点でも金属外装で武装したシグマのfpとContemporary Lensへのこだわりは好感が持てる。

 一方、シグマはデジタルカメラの領域では、買収したシリコンバレーのFoveonのセンサーをコアに独特のSIGMAワールドを形成している。固定的なFoveonファンが存在する。しかし、今回は2460万画素のフルサイズベイヤーCMOSセンサーとした。あえて「普通のセンサー」にしたことには意味がある。スチル専用ではなく今回はシネマとのシームレスな結合を優先しておりその方が合理的だと判断したようだ。ちなみに2020年にはスチル専用の新たなフルサイズミラーレスカメラを発表するといっている。こちらは新たな設計のFoveonセンサーだという。

 このfp (フォルテッシモ、ピアニッシモの意)の命名のセンスにも唸らされる。味気ない記号ではなく、表現者の「お道具」にメッセージが込められているように感じる。詳しいスペックはあちこちのネット上に紹介されているのでここで重複して説明はしないが、その特色を一言で言えば、ポケットに入る(実際はちょっと無理だが、それくらいコンパクトだという例え)フルサイズセンサーカメラ。も一つ言えばスチルカメラにシネカメラの機能を融合させたスチル/シネシームレスカメラ。さらにも一つ言えば、デジタルビジュアルエコシステムの母艦。デジタルスチル撮影、シネシューティングの機能をコンポーネント化した。すなわちスチル撮影でもシネ撮影でも、システムをカスタマイズできる自由度を提供するカメラだ。特にシネマモード撮影(動画)にこだわりが感じられる。驚くのはシネマDNGモードを備えていて、USBーCポートに外付けのSSDを繋いで撮影、記録できる。したがって、小さなボディーに拡張性:Scalabilityを可能ならしめるためのインターフェース、ガゼット増設ネジが用意されていて他社製品との組み合わせも可能。もちろんマウントアダプターを介して様々なレンズを使用できる。ホットシューすら別部品になっている。流行りの電子ビューファインダー:EVFもないが、ディレクターズモニターの接続が可能だ。。システム化するにつれ、大きなレンズを装着するにつれ、ハンドグリップが欲しくなるが、ちゃんと別売りで2種類用意されている。このfpの拡張性を、既存のカメラの固定された特徴を再構成する「デジタルカメラの脱構築」というキーワードで説明している。この辺りも柔軟な頭と豊かな感性で生み出されたオープンプラットフォーム発想のカメラだと感じる。

 シグマはLマウントアライアンスなので、もちろんLeica SL用の重いレンズも使える。マウントアダプターを介してLeica M、Rレンズも使える。ボディー内手振れ補正機能がないが、レンズ内手ブレ補正機能つきLレンズには対応していて、使用時には手振れ補正表示が出てキチッと止まる。しかし、そうでないレンズを使用する時には手振れに注意する必要がある。ただ、このカメラは高感度ノイズが驚くほど抑えられていて、ISO6400くらいは完全に常用域だ。したがってLeica Mレンズや、キットレンズの45mmレンズでも高感度に設定してシャッター速度を稼げば手振れの心配はない。シャッターは電子シャッターのみという割り切りよう。したがって高速移動する被写体の撮影ではいわゆるローリング現象があることを知っておくべきだ。外見の特色の一つに液晶パネル外周をグルリと取り巻くヒートシンクがある。シネモードなど、長時間の撮影を想定した冷却ベンチレータだ。これがこのカメラの性格、コンセプトを物語っている。

 同時発売された45mmのミラーレス用標準レンズがまた魅力的だ。いやむしろ、シグマ製品発表会ではレンズの発表が先で、ソニーEマウント用、ライカLマウント用の新企画として紹介された。そして、「One More Thing: もひとつおまけに...」としてfpを、まさにポケットから取り出して紹介して見せた。このプレゼンテーションタクティクスの巧みさ、センスの良さにも、山木社長の新しい感性と戦略を強く感じさせる。そう言えばなぜプレゼンしている社長が謎のfpロゴの入った黒いTシャツを着ていたのか、ここでようやく謎が解けるというストーリー展開、演出であった、

 フルサイズミラーレス用レンズはどれも大型化し重いものが多い。Leica SLのレンズのダンベルやバズーカ砲のような重量感には辟易する。しかし、この45mm単焦点レンズはは小型軽量のコンパクトレンズだ。スペック的には45mmで、50mmと35mmの隙間をいく焦点距離。F値は2.8と高速単焦点レンズ時代にコンサバなスペック。手ぶれ補正もない。しかし、そのクリアーでシャープな解像度、反対にアウトフォーカス部のボケ味は、なんでこうなるの?!というほど魅力的だ。最短撮影距離は24cmまで寄れるので、開放で撮ると結構なボケが楽しめる。開放、近接撮影だと少し解像度がソフトになるが、ちょっと絞るだけでキリリとした描写になる。周辺光量落ちや収差は感じられない(作例参照)。しかも鏡胴はブラックペイントのオール金属。その剛性感、絞りリングのクリック感もとても高品位な仕上げだ。レンズマウントのカッチリ感も最高だ。ガタガタするレンズマウントは不安になるものだ。おまけに付属の専用フードも縦縞模様の金属製(よくあるプラスチックではない!)というこだわりようだ。こうした「造り」にいたく感動してしまう。このカメラとレンズの組み合わせがベストマッチだが、もちろん、あの重いLeica SLボディーにも装着できる。この組み合わせだとSLが嘘のように軽快な取り回しとなるのが嬉しい。

 若い社長の個性とチャレンジ精神と、何より写真好きがこのカメラとレンズを生み出したことがありありと伝わってくる。社長と開発者の顔が見える「お道具」に仕上がっている。日本の製造業も、高性能だが低価格の量産品モデル(これで成長してきたのだが、そのモデルは韓国。中国にキャッチアップされ、追い越されてしまった)から抜け出て、より高付加価値、高品位、オンリーワンの使い手の感性に訴える製品を出していかねば生き残りできないことは自明だ。カメラという道具は特にそうした「特別感」が必要なガゼットだろう。いやあ、面白くなってきたぞ!ライカを超えるカメラが出てきそうな予感だ。再びライカバスターが日本に現れるかもしれない。

 シグマの山木和人社長、1968年生まれの創業家二代目社長だそうだ。最近流行の若手ベンチャー企業経営者ではなく、いわば老舗の伝統企業を引き継いだ経営者だ。創業者である父は光学技術の研究者であり自ら手を動かす技術者で、オンリーワン精神の持ち主であったらしく、下請けに甘んじることなく、独自のブランドで独自の製品群を世に出してきた。ニコンやキャノンという二大ブランドが厳然と存在する市場での差異化は難しく、「安さ」を売りにせざるを得なかった悔しさはいかばかりだったか。かといってコスト度返しのとんがった高級品を開発してもなかなか商業的に成功する道は厳しかっただろう。良い技術を持ちながら苦労してきたと思う。その父親の苦労を知り、オンリーワン精神を二代目はしっかり引き継ぎ、さらに新しい感性と、時代を見つめる眼と、最先端の技術を生かした製品の企画、製造にのり出だした。時代も後押しした。カメラ自体がデジタル技術イノベーションで、高性能化するとともに、コモディティー化が急速に進み(スマホカメラがその究極)、スペック的、コスト的な差異化が困難になってきた。利益の出にくいモノ作り事業モデルになってしまったカメラ業界で、差異化ポイントをハッキリさせて、それを高付加価値として受け入れてくれる顧客層を狙った製品を開発する方向に動いている。その差異化ポイントとは「人の感性を刺激する」道具造りである。高性能で高品位。コストはそれに見合っていれば高くても買う。そう云う高付加価値/差異化渇望ユーザを狙う。誰もが手を出す汎用品ではなく、こだわりを持った人が唸る「お道具」を丁寧に作り出す。かつてのライカの精神にも通じるものがある。長いライカ社との協業の中で学んだのかもしれない。先述のように彼はMade in Japanにこだわる。製造拠点である「会津」にこだわり続けている。良い「お道具造り」は結局「ヒト」という経営資源に依存するものという強い信念による。こういった個性的、かつ堅実な視点を持つ若い経営者がどんどん出てきて、日本をもっと面白くして欲しい。決してとっぴな発想ではないが、創業以来の目線の延長線上に、満を辞して今回の製品を生み出したのだろう。時宜を得た製品を生み出すためには、「時」を見極めることが必要だ。納得だ。これがスタートで、さらにユニークな世界のオンリーワンを次々生み出して欲しい。


SIGMA fp + SIGMA 45mm f.2.8 DG DN Contemporary

背面の配置
わかりやすいユーザインターフェース
EVFは内蔵されてないし、外付けも想定されていない。
右手の握り位置が狭くてこのままでは少々ホールディングが悪い
別売のハンドグリップが用意されている。




手のひらサイズ!
しかし意外に分厚いボディサイズ

USB, HDMI, MIC等のコネクター端子が配置されている
ネックストラップ用のネジを外せば、ホットシューユニットの装着、ジンバル、ドローン、シネマ用のフレームへの装着時にねじ止めができる。

レンズフードは金属製!
スチル撮影とシネ撮影をワンタッチで切り替えできる
このシームレスさが特徴
外見の特色のひとつはこのヒートシンク。
長時間撮影だと結構な発熱量がある
まるで液晶パネルが浮いているように見える。
EVFがないので背面液晶画面がすべてとなる。
視認性の高い3.15型210万ドットタッチセンサー
ここに取り付けるビューワーもオプションとして用意されている


(作例)

取り急ぎ試し撮りバージョン。
DNGで撮影。LightRoomでポジフィルム現像。







絞り開放(f.2.8)で近接撮影
ソフトフォーカスのようなふんわりした写り
(LightRoom でクロップ拡大)

しかし一段(f.3.5)絞るとクリアーで違った印象になる
(LightRoomでクロップ拡大)