2019年11月3日日曜日

中延商店街 〜日々の暮らしの中に昭和が垣間見える商店街〜

 東急大井町線中延駅/都営浅草線中延駅から東急池上線の荏原中延駅までの間、約300mの商店街がある。一部がアーケード街になっている。ここは品川区の中延商店街である。品川区の商店街としては、近くにある戸越銀座商店街が有名で、最近は観光客にも人気。外国人も集まりお店も多国籍化してきている。しかしここ中延商店街の方は地元密着型。行列のできる店などはないし、インスタ映えするお洒落なカフェもない。八百屋さんや肉屋さん、家具屋さん、美容院、洗濯屋さんと町の電気屋さん。なぜか和菓子屋さんが多い。ご多分にもれずコンビニやファストフードなどのチェーン店も増えているが、代々地元で商売してきたお店が軒を並べている。日常の生活の中に生きる「普段使い」の商店街だ。ホッとする雰囲気、佇まい。そうした日常の風景の中に「時空トラベラー」を引き付ける非日常的な点景が混在している。シャッターを下ろしてしまった古建築(昭和初期、大正末期)。老夫婦が昔ながらの銘菓を商う老舗。看板建築をリノベしたペットフードショップ。タバコ吸い放題の喫茶店。昭和に置いてきた光景だ。いつ頃からこの商店街が形成されたのかよくわかっていない。畑が広がっていたこの辺りが住宅地化し始め、東急電鉄の駅が出来てからだんだん商店街が形作られていったらしい。この辺りは古来、武蔵國荏原郡であった。律令時代の郡衙は戸越神社あたりにあったらしいが、その跡は見つかってない。1932年(昭和7年)に荏原郡は全域が東京市に編入されて郡が消滅する。大東京35区の時代である。荏原町は荏原区になり、戦後は品川区と統合され東京23区の時代となった。

 東京には戦後ある時期まで(多分1964年の東京オリンピックから高度経済成長期の初期まで)こうした商店街があちこちにあって、それが日常の風景であった。地元の個人商店中心に形成されていて、まだ大型スーパーやコンビニや、ましてネットショップなどない頃だ。下町ではないが、しかし山手の雰囲気でもなく、下駄ばき普段着の町。立ち並んだ電柱には桜や紅葉の造花が飾り付けられ、「✖️✖️商店街」の文字が記された提灯や街路灯が設置され、路面に建ち並ぶお店の軒下の看板が連なり、店員さんの「らっしゃいらっしゃい」の威勢の良い掛け声が通りに満ちている。賑やかで狭い通りに人通りを縫うようにバスが通る。その通り一本後ろが住宅街である。まさに、当時人気のNHKテレビドラマ「バス通り裏」の世界だ。これが幼い頃の記憶に残る東京の住宅街の風景であった。いつの間にかこうした商店街を形成していた店が、一軒、また一軒と廃業し、姿を消してシャッター通り化していった。駅前に大型スーパーができ、商店街のお店の後にはマンションや狭小なプレハブ集合住宅、コンビニが建ち並ぶ。何か寂しく、味気ない街並みに変貌していく。今や、その大型スーパーも経営不振の時代に入り閉店するところが増えている。小売業の変遷と言って仕舞えばそれまでだが、街の佇まいがそれによって大きく変容させられている。それだけにここ中延商店街の短いアーケード街の屋根の下に凝縮された、あの頃の「商店街」の記憶にホッとする。

 大阪には天神橋筋商店街や心斎橋筋商店街など長大なアーケード街が今もある。黒門市場は大阪ミナミのランドマークといって良い。空堀通り商店街のような時空の迷宮への入り口のようなところもある。文化の多様性にあふれた鶴橋商店街や桃谷商店街も大阪的だ。環状線や私鉄沿線の駅前には、駅を起点として、それぞれに地元の顔を持った商店街が伸びている。日々の暮らしに密着した商店街の存在、これが大阪という街を特色付けているように思う。京都には寺町通、新京極、錦市場など独特の歴史を背負った商店街があり、わが故郷、福岡/博多には川端通、柳橋連合市場、新天町、西新町商店街など、それぞれ違う個性を持つ商店街がある。そう、商店街はその町の歴史と住人の気質を醸し出す顔のようなものだ。変化の激しい東京にもそうした顔がまだ残っていることは嬉しい。が、どこか関西のそれとは違うように感じる。それが何かはよくわからないが、多分、その土地の長い歴史に根ざしたディープな迷宮さが足りないのだろう。時間で熟成され、片隅の埃にも歴史のアカが凝縮し、あるいは腐り始めたような匂いがない。東京は町の新陳代謝が激しくて熟成された姿が残される余地はない。商店街は徐々に消滅しつつあって存在感が他の街に比べ相対的に薄れていっている。要は破壊と建設が延々と継続される現代を生きる都会なのだ。そんななかここ中延商店街には、一瞬ではあるがどこか関西の商店街の匂いがする。迷宮と言うには短すぎるがノスタルジアを感じる空間である。



中延商店街
意外と東京では少ないアーケード街である。

なぜか八百屋さんが多い
しかも安い!

こちらはさらに激安を売りにする八百屋さん
思わずいらないのに買ってしまうこの安さ!

老舗の和菓子屋さん
お年寄りの憩いの場になっている
古建築を改造したペットフード屋さん
ワンちゃんが外でお待ちかね
アーケード街の外にも老舗の和菓子屋さん


立ち話コミュニケーションは当たり前

人形町のあの名店がここにも
だんだんマンションに侵食されていくのだろう
このシャッターが開くことはもうないのだろう
せめてこの戦前の看板建築を残して欲しいものだ

第二京浜国道の交差点が商店街の出口

突如お風呂屋さんが出現
ただし煙突がない...