2020年11月7日土曜日

ライカとシグマとニコン 〜これからのカメラが生きる道〜

 

Leica SL2 + SIGMA 85mm f.1.4 DG DN Art


ライカのミラーレスカメラLeica SL2を使い始めて丁度一年になる。ようやく手になじみ、掌で転がす感触も至極よくなってきた。そしてそのクオリティーと使い勝手に満足している。その「お道具」としての佇まいと、そこから叩き出される優れた画像。そしてなんと言ってもライカで撮影するという体験が心地よい。M8以来のデジタル化にいま一歩の感があったライカだが、ようやく完成域に達したと感じる。まだまだユーザが求める機能はニコンやキャノン、ソニーにかなわないものもあるが、不要なギミックを排したところがむしろ好ましい。デジタル技術(ソフトウェアーデファインドカメラとしての)はそのコアな部分ををパナソニックに求めているので、両者は外見は違うがまるで双子カメラのようだ。昔の一眼レフ全盛時代、ミノルタと提携して外装はLeica R、中身はMinolta XEという関係を彷彿とさせる。一方、ライカSLシリーズの問題は、まだレンズラインナップに限りがあることとその価格だ。

2018年9月、ライカとパナソニック、シグマは「Lマウントアライアンス」を発表した。ライカがミラーレスカメラに採用したLマウント仕様を使用する、いわば新しいミラーレス生態系である。パナソニックとのアライアンスは先述のように、デジタルカメラ技術提携、パナソニックレンズにライカブランドの使用というギブテク関係からも理解しやすい。シグマはどうだ?実は公表されていないがシグマはかつてライカR向けにズームレンズを供給していたようだ。長い付き合いであると言って良い。そういう点では、このアライアンスは、昔からの商売仲間が補完し合う、新しいミラーレス時代の連合艦隊を組んだというところだろう。それはともかく、レンズを主体としているシグマ(失礼!SIGMA fpのようなユニークなカメラも出している)は、ここへ来て意欲的なレンズを次々とリリースし注目されている。ソニーEマウント向けのシリーズもラインアップしている。しかし、シグマは限りあるライカSLのレンズラインナップに多様な選択肢を与えている点が嬉しい。リーズナブルな価格設定ではあるが、ライカレンズに匹敵する性能と、高品位、高品質な仕上がり。世界のライカコミュニティーの辛口フォトグラファー、コメンテーターにも驚きを持って迎えられ高い評価を得ている。

シグマは立て続けにLマウントのズームレンズや単焦点レンズを出しているが、ここでは、特に評価が高い注目シグマレンズ2本を実際に使ってみた。一本は85mm中望遠、二本目は105mmマクロだ。その「作例」をご紹介しよう。いずれもLeica SL2ボディーに装着して撮影したものだ。


SIGMA  85mm f1.4 DG DN Art

開放F 値1.4を誇る中望遠レンズ。海外のカメラレビューやプロフォトグラファーに驚きを持って迎えられたレンズだ。高価なApo Summicron 75/2を買う必要がないと。ポートレート用に多用される焦点距離だが、それに限らず、風景写真や街角写真にも活躍できそうだ。開放撮影だとピントが合う幅は極めて薄い。が、ピントとボケのグラーデュエーションが絶妙。先代一眼レフ用と比べるとボディーサイズ、質量ともかなりコンパクト化され非常に取り回しが良い。周辺光量と歪曲収差補正はカメラボディー側に依存しており、これがコンパクト化に貢献している。手ぶれ補正はないがキチッとホールドできるし、ボディー側の手振れ補正が効くので問題はない。絞りリングがありマニュアルに切り替えることができる。しかもクリックかスムースか選択できるこだわりよう。


「作例」

合焦部分のこの解像力!
ボケ部分とのコントラスト

合焦部分は葉脈までしっかりと解像。
一方、アウトフォーカス部分は茎まで溶かしてしまう。
玉ボケもキレイ

被写界深度は極めて薄い

玉ボケ

絞り5.6

絞り開放1.4

絞り開放1.4
ポートレートレンズの真骨頂
実はピントが眼ではなく、眼鏡のフレームに合ってしまっている。
SL2には瞳AF機能がないこともありなかなか使いこなすには修練がいる。


SIGMA DG DN Macro 105mm f.2.8 Art

カミソリマクロと呼ばれた一眼レフ用マクロ70mmの後継モデル。レンズ設計、構成は全く一新されたが、そのDNAを引き継ぎ非常にシャープで質感再現は抜群だ。AFは爆速とはいえないが、マクロレンズとしては十分に許容範囲内。もちろんMFで、微調整しながら撮影できる。絞りリングがありマニュアルで設定できる。こちらもレンズ内手振れ補正はないが、ボディー側の手ぶれ補正がきちんと効くので問題ない。ライカにはマクロレンズが用意されておらず、あの伝説のR一眼レフマウントのApo-Elmarit-R 100/2.8(マニュアルフォーカス)を中古でゲットして、L/Rマウントアダプターで使うしかない。これはこれで「神レンズ」だが、このSIGMAはさすが、最新の設計により異次元の写りを提供してくれる。


「作例」


この金属の質感再現力と解像力
ファインダーのホコリまでくっきり写っている。


絞り開放2.8

「寄る」といえば機械式時計メカのクローズアップ
クモリは時計のカバーガラスのクスミが再現されたモノ

ムラサキシキブの実の質感

カミソリマクロ!

ボケがとろけるよう


ライカとシグマ

上記写真はLeica SL2にそれぞれのSIGMAレンズをつけた、Made in Germany とMade in JapanいやMade in Aizuのコラボレーションだ。ご覧の通りシグマの最新レンズ二本は決してライカのプライムレンズに負けない描写力、光学性能を持っている。作例(ウデは別にして)からも卓越した解像力とボケ味をもった優秀なレンズだということがわかるであろう。しかし、価格はライカの5〜6分の1ほどだ。かといってシグマは廉価版、量産化を狙ったチープなレンズではない。ランカレンズとシグマレンズの価格の差と重量の差はは、どうやらレンズ硝材や鏡胴の材質によるようだ。ライカレンズはプラスティック素材を廃し、耐久性を重視しオール金属で武装している。落下試験基準は厳しくて、2mの高さからの落下でも壊れず、かつMTF性能に変化が生じない仕様になっているという。これにより10年以上先まで使用できる。さらにその時に登場するであろう、より高度化した(高画素化した)カメラにも対応できるようという設計思想で作り込まれている。また熟練工の手作業による組み立てに拘っている。将来にわたって調整、整備で使い続けられる(いわゆる一生もの)。すなわち消耗品と考えていないということだ。コストを考えずにやればこれくらいのものできるよなと言いたくなる。この辺りが「モノ作り」に対する考えの違いだ。しかし一方、シグマも高品位な仕上がりで「消耗品」扱いではないと感じる。鏡胴はマウント部中心に金属素材で剛性感を守っているが、駆動部である鏡筒部分にエンジニアリングプラスチックを使用して軽量化やAF速度の確保に貢献させている。しかし決して仕上がりはプラスチッキーでチープではないし、耐久性に問題があるとは思えない。レンズ自体は非球面、多層コーティングを多用して解像度、ボケ味、収差の解消に徹しており、スペック上もライカに負けていない。社内に「ゴーストバスター」という専門家チームを設けて、徹底した画質管理を図っている。当然コストパフォーマンス(コスパ)が良いわけだが、すごいのは、コスパを狙った製品ではない点だ。最高性能を極限まで追っかける。それがトッププライオリティーなのだ。コストはそれについてくる。しかしライカのように高価にならない!その姿勢と結果が市場を動かす。

ライカとシグマが共通しているのは、両社とも一貫して企画、設計、製造を自国の自社工場で行っていることだ。ライカは創業の地、ドイツ・ウェッツラー本社で。シグマは福島県会津工場で。合理化、コスト削減のためと称して海外に生産拠点を移すことはない。ライカが最近M用レンズの一部の生産をポルトガルに移す発表をしたが、ライカユーザには評判がよろしくない。「ライカ社は今後Mの力を抜いてゆく」というメッセージと捉えている。買わないだろう。ライカユーザー(ファン)は圧倒的にドイツ製にこだわる。一部のズームレンズは日本メーカ(名前は公表されていない。シグマ?)のOEMだが、これを指摘して買わないのがライカユーザーだ。極めて保守的だ。シグマも会津自社工場をクオリティーと地元愛の象徴として広く世界に「会津品質」「Made in Aizu」としてPRしている。海外の人には神秘的な会津の風土や自然とSIGMAブランド。これが海外のライカファンに非常に評判が良い。世の中は「安くて品質が良い」という、かつての日本の大量生産モデルの価値観、経済合理性だけでは評価しなくなっている。カメラやレンズ、時計のように生産地やブランド、作り手にこだわるモノ作り、商品領域が確かにある。

シグマといえば、かつては廉価版のサードパーティレンズメーカーで、申し訳ない言い方だが、「純正品」(今となってはこの言葉自体が差別的であるが)より安くて品質もちょっと...というイメージであった。またかつてはそういう市場を狙った。しかし、それを一新する最近の変身ぶりだ。元々技術力のある会社であったわけで、こだわりの設計開発技術者と、製造ラインのプロが育っている。そして製品企画のセンスの良さ。そうした技術屋魂に火をつける若い山木社長(文科系出身の2代目社長)の卓越した経営センスと突破力。彼自身がYouTubeやVideoに登場して、彼自身の言葉で製品への思い入れと企業のプレゼンテーションを行う。「Mr. Yamaki」はいまやライカマニアの間で有名人で、ブランドにすらなっている。しかも会津:Aizuという地域に根差した企業理念に依拠したストーリーが共感を呼んでいる。これがMade in Aizuという今のシグマを生んでいる感じがする。日本の新しい「モノ作り」のモデルを示しているに違いない。

参考:2019年10月27日のブログ「SIGMA fp 45mm/2.8」


ニコンよどこへ

ところで業界の老舗、一眼レフで世界王者となったNikonが、昨今経営不振で苦しんでいる。つい先日の11月5日に赤字幅を削減するために2000名の海外事業のリストラと合理化を発表。縮小均衡モードに入っている。しかも生産コスト削減のために宮城工場でのデジタルカメラの製造をやめて、タイ工場に統合するという!Made in Thailandのニコンを喜ぶプロやハイアマチュアがどれくらいいるのか?滅びの道を歩んでいないか?それでNikonのブランド価値を生かせるのか?(後藤さん、読んでたらごめんなさい!)ニコンの将来は、コスト削減、合理化だけでなくて、カメラ事業を切り離して、コモディティー商材市場から撤退してハイエンドカメラ/レンズ路線にシフトする、であろう。工場の統合するならタイではなくて宮城工場か、創業の地大井での生産再開だろう。大井には広大な空き地が手つかずのままあるではないか!ライカのMade in GermanyやシグマのMade in AizuようにMade in Japanのハイエンドのクオリティカメラに特化する。こうして一回萎んで、リシェイプして拡大再生産路線へ転換するモデルを研究してはどうか。特に「世界のNikon」ブランドを毀損しないことが重要。Leicaブランドと同様、ブランドは長く継続して、顧客に支えられてきた事業によって磨き上げられた宝だ。大きな価値を生む元手だ。これまでも日本のカメラメーカーは多くの「世界ブランド」を葬ってきた。ヤシカ、ミノルタ、マミヤ、オリンパス... このままでニコンは世界が認めるNikon ブランド、ライカと並ぶ憧れのニコン(ナイコン)を守れるのか。世界のNikonファンは、Nikon=Made in Japanの高品質、高品位のブランドとして認めている。Depentable and Durable Nikon、それに(余分に)お金を払っているのだ。安けりゃよいカメラならいらない。そもそもスマホ時代にコモディティーなコンデジカメラはもう消滅しかない。間違えないでほしい。価格競争力じゃなくて「ブランド」競争力だ。

ライカとシグマの共通点。それは「よみがえり」だ。事業モデルは技術、市場の変化により 不断に変遷してゆく。オールドビジネスモデルは消えゆく。そしてニュービジネスモデルが登場する。それが「よみがえり」による事業継続だ。そしてよみがえらせるのは顔の見える「人」。「経営者」と「技術者」だ。ライカ社を買ったアンドレアス・カウフマンのように誰かニコンのカメラ部門を買ってくれないか。マネジメントバイアウトでも良い。そんな富裕層は日本にはもはやいないのか。まさか中国資本のニコンになるのか?私が大金持ちなら買うのだが、カメラ一台(もちろんNikon Z7IIだ!)買うのがせいぜいだ。大言壮語はこれくらいにしておくが残念だ!