2021年1月16日土曜日

クラシックカメラ遍歴(9)Robotという名のカメラの物語 〜AI+Roboticsはここに始まった?〜

 

Robot Royal 36, Sonnar 50mm/2, Xenogon 35mm/2.8, Tele-Xenar 75mm/3.8



「ロボットは写真の世界で何ができるだろうか?」
50年代当時はユニークな問いであっただろう。
デジタル時代の今、この問いの答えは...


RobotはドイツのOtto Berningが1931年にドイツで創業したカメラメーカー。ゼンマイ式のスプリングモーターを用いてフィルム巻き上げ、連写ができるユニークな機構を有するカメラとして人気がある。今でこそ連写機能は当たり前で秒速何コマという速度を競っているが、当時はライカが底部に速写用巻き上げレバー(ライカピストル)を装着可能として、その速写性を謳っていたが、ゼンマイを用いた連写機能の内蔵は革新的であった。これに追随していくつかゼンマイ式連写カメラが世に出たが、これほどの人気と持続性をもって世に評価されたカメラは稀有だ。しかも、そのオール金属製の堅牢でずっしりした作り、一部のスキもガタもない緻密なメカがなんといっても魅力だ。もとは24×24のスクエアーフォーマットからスタートしたが、18×24のハーフサイズフォーマットや、戦後は24×36のライカ版(フルサイズ)フォーマットのカメラも出した。戦争中はドイツ空軍向けRobotを製造(Lufftwaffen Eigentum)し、そのコンパクトさと連写機能が評価されてメッサーシュミットなどの戦闘機に搭載された。同じドイツ製でもライカやコンタックスとは違った佇まいのカメラだ。

シャッターは最速が500/1秒のロータリー式の金属リーフシャッター、全速シンクロ。フィルムは専用マガジンに装填して撮影する。レンジファインダーは戦後のRoyal model III以降搭載された。全機種がレンズ交換式で、次のようなトップ光学機器メーカーからレンズの供給を受けた。どれも秀逸な高品位レンズである。

Carl Zeiss (Tessar, Sonnar, Biotar)

Meyer Goelitz (Trioplan, Primotar, Telemegor)

Schneider-Kreuznach (Xenar, Xenon, Xenogon, Tele-Xenar)

Rodenstock (Heligon, Radiator)

驚くのは、こうした戦前の欧米のカメラメーカーは、戦後は日本製のカメラに淘汰されて消滅するか、カールツアイス社のようにカメラ事業から撤退した会社が多いが、ライカ社とともに現在も存続し事業継続している。デュッセルドルフでRobot Visual Systems GmbHとしてアウトバーンなどの交通系監視カメラ、産業用モニターカメラメーカーとして、最新のセンサー技術、AI連携のロボットカメラとして活躍している。戦前のゼンマイモーター連写フィルムカメラ「ロボット」が、文字通り最新のAI + Roboticsのスタートポイントであったとは驚いた。

... というような説明は、いいろいろな専門書が出ているので、詳しく知りたい方はそちらを参照願いたい。ちなみに私のネタ本はこれ。


Cyclope社刊1996年

ところで、私にとってこのRobotは、クラカメにズブズブとのめり込むきっかけになったカメラである。有楽町にあった(今でもある)Dカメラで、店主が弄っているカメラを見て、目が釘付けになった。なんとかっこいいメカニカル精密カメラだ!聞くとロボットだという。一目惚れした!触らせてもらった。すごい!ずっしりと手応えがあり、しっかりと厚みがあるダイキャストボディー。メッキの質感がマットで貼り皮のざらざら感の官能的なこと。レンジファインダーのビューファインダー窓と測距窓の位置がレンズ中心線に対して正対称に位置している。アクセサリーシューもそうだ。ということは外付けファインダーを装着したときに、ちょうどレンズの真上に位置し、視差が生じない。ライカで気に入らないのはこの辺が無視されていることだ。デザイン上もなんか収まりが悪い。ロボットのこの合理的にバランスされたボディーデザインも一目で気に入った(下記の比較写真)。もちろんゼンマイモーターのジーッという巻き上げ音がたまらなかった。レンズはカールツアイスのゾナーがついている。これをみて一発で撃沈だ!ロボットはシステムカメラとして「ロボットエコシステム」を形成していて、色々な優秀なレンズやアクセサリー類が出ている。もっともライカに比べると希少種であったことも確かで、なかなかカメラ自体もレア物の部類である。したがって交換レンズやファインダーなどのアクセサリー類のお宝ハンティングにも苦労することとなる。おかしなもので、それが惹きつけられる理由の一つでもある。無いとなると欲しくなる。これがコレクターの基本的な病的症状である。ともあれこれまでロボットに関する予備知識があったわけでもないく、研究したのちに惚れ込んだわけでもない。まさに一目惚れである。大体カメラに限らず私の一目惚れに狂いはない。私が最初に引かれたものはまず間違いなく良いものであり後悔したことはない。目利きとカンには自信がある。このロボットもそうした自信に基づくコレクション(!?)の一つである。


Robot Royal model III
レンズ中心線に対しレンジファインダー窓、外付けフィンダー
さらにはシャッターダイアル類が左右対称に配置されている。

Leica IIIf
レンジファインダー窓、測距窓、外付けファインダーは
レンズ中心線と無関係に配置されている



コレクション1)Robot I (1934~ )

ゼンマイ式モーター内蔵の26mm スクリューマウントカメラの第一号だ。このマウントは1938年には改良版のRobot IIが出た。また戦後の1950年にRobot Starが市場投入された。しかし、このオリジナルのI型が一番デザイン的にも、メカ的にも気に入っている。ビューファインダーは横向けに回すことができる。これは被写体に気づかれないよう撮影するスパイカメラ的な撮影を可能ならしめる。また、撮影枚数をカウントするダイアルがユニークだ。一見すると乱数表のようなダイアルだが、一枚撮るごとに円盤が回転して矢印が正確に枚数を指し示す。誰が考え出したんだろう。しかしなんといっても軍艦部のゼンマイ巻き上げノブが目立つ。これは堅牢で巻き上げやすいサイズになっている。カチカチと正確に巻き上げてくれゼンマイが切れることはなさそうだ。信頼感がある。ドイツだ!戦後のソ連製の(ライカコピー機)レニングラードもゼンマイ巻き上げ式だったが、手に入れて2日目にはゼンマイがボディー内でブチ切れて、ものすごい音がして一巻の終わりであった。ソ連だ!もっとも価格もびっくりするくらい安かったので笑って済ませた。


Tessar 50mm/3.5, Tele-Xenar 75mm/3.8

軍艦部には左から
ビューファインダー、ゼンマイ巻き上げノブ、シャッターボタン、撮影枚数カウンター


シャッター速度設定ダイアルが下部に


大きなゼンマイ巻き上げノブと
ユニークな機構の撮影枚数カウンター(一見乱数表のような円盤!)
シャッタが不用意に落ちないよう安全装置がある

非常にコンパクトなカメラ!



コレクション2)Robot Royal model III (24×24)  (1953~ )

戦後のロボットはバヨネットマウントになった。そしてレンジファインダー式となり正確なピント合わせが可能になった。連写機能付きである。I, II型に比べてサイズが大きくなった(この前にビューファインダー(距離計なし)のRobot Royal model IIが出た)。しかし、このサイズ感もカメラをしっかりホールドして撮るには必要だ。なんでも小さくすれば良いというものではない。そしてなんといっても、今流行りのインスタグラム御用達のスクウェアーフォーマットだ。ローライやハッセルブラッドと同様のスクウェアーを35mmフィルムで採用するなんて先見の明があったのだろうか? だが、残念ながら、今このロボットでインスタ投稿する人はいないだろうから、時代が早すぎた?のか。先述のようにボディー正面から見ると、レンズ位置に対して、ビューファインダ窓、距離計窓、さらにアクセサリーシューが正しくシンメトリカルに配置されてる。さらにシャッターダイアルと連写モードダイアルも綺麗に左右対称の位置に鎮座している。この技術的合理性とデザイン的な整合性がなんといっても精神衛生上たまらなく良い。レンジファインダーカメラはこうでなくちゃいけない。



Tele-Xenar 75mm/3.8付き

Xenongon 35mm/2.8付き

シンクロ接点はX, Mが正面左下に用意されている


軍艦部
I、II型にあったゼンマイ巻き上げノブが無くなった
メッキの質感はマット調でざらりとしている

ゼンマイ巻き上げレバーは底部に移された
Make sense !


連写切り替えレバー


スクエアーフォーマット
フィルムは専用カートリッジに入れて装填する


外付けスポーツファインダー
スクエアーフォーマット用

この外付けファインダーには画角の選択機能、パララックス補正機能が装備されている


大口径のXenogon 35mmレンズ
このレンズの作りは工芸品と言って良い美しさがある。
レア物で、探してすぐ見つかるものではない!

バランスのとれた美しい工芸品の佇まい!


コレクション3)Robot Royal 36 (24×36) (1955~ )

フルサイズフィルム版。連写機能は省かれている。フルサイズフィルムでは無理があると判断したためか? 連写レバー跡にはRoyal 36のエンブレムがエレガントに鎮座ましましている。この後、連写機能を付加した改良版が出されている。また距離計窓が四角から円形に変更された。ちょっとシンメトリーなデザインが損なわれた感じで残念だが... しかし、メカニカルで技術的な合理性を重視したデザインのIII型に比べ、少しエレガントで洗練された佇まいとなった感じがする。ロボットも身なりを気にし始めたようだ。

この後、ロボット社は交通監視用、防犯用のカメラを次々市場に投入し、この業界のリーディングカンパニーに成長していった。もちろんフィルム送出動力は、ゼンマイから電気式のモーターへ代わり、そのフィルムがなくなりやがてデジタル化してカメラは激変し、加えて顔認証やAIを活用したバイオメトリクス認証へと進化したゆく。まさにロボットはAIとともに知能を持ったロボットとなって行った。しかし、知能を持って進化したロボットよりも、戦後50年代のゼンマイで動くメカニカルなロボットのほうが、より愛着を感じるのは、同世代人の単なる懐古趣味、ノスタルジアなのだろうか... 


端正な姿のRoyal 36

Sonnar 50mm/2付き
バルサム切れが発生しているが写りに問題はない。流石のゾナーだ!
連写切り替えレバーがなくなり、Royal 36のエンブレムが

レンズのピントリングには指掛かりがあり、操作しやすい配慮が

軍艦部はIII型モデル(24×24)とほぼ変わりない


シャッター速度設定ダイアル


TEWE製の外付けズームファインダー
28mmから200mmまでカバーする
ライカと違ってレンズの中心線上に位置するのが好ましい

昔のカメラはファインダーの覗き穴が小さい。

珍品レンズEnna Lithagon 24mm/4
当時としては超広角レンズ



(撮影機材:Leica SL2 + Sigma 45/2.8 DGDN。このシグマ標準レンズはコンパクトで近接撮影にも活躍してくれる万能レンズだ。ボケも悪くない。ただ開放2.8にすると独特のハロが出るので、それが嫌な場合は2/3段ほど絞れば解消する。歴史に名を残したレガシーカメラを最新の若造カメラがレスペクトを持って撮る。これもまた善きかな。)