2011年7月20日水曜日

博多駅三代物語 ー人参町は今...ー

 JR博多シティーが開業して4ヶ月。九州新幹線全線開業と新駅ビル企業に沸く話題のスポットだ。法事で福岡へ行ったので寄ってみた。行きはANAで福岡空港着。帰りをその新装開業なった博多駅から新幹線で帰るというコースをとった。

第一印象。大阪駅のようなスケール感は無い。ありゃやり過ぎだけど福岡と大阪の都市の規模の違いか。一言で言うと駅ビルが前より一回り大きくなって、中にお約束の駅デパート、ショッピングモールが出来た,という感じ。特段の驚きも感激も無いビルじゃないか。とは言え、その賑わいは確かにすごい。福岡に新しい商業地域が出現した。天神も顔負けの集客力だ。駅前は従来とさほど変わりなく、大博通りと住吉通りという大通りに沿ってオフィス街が広がる。天神周辺のような複合的な商業地域の連続性は無い。

駅前から正面に向うと人気の観光スポット、キャナルシティーがあり、ここと博多駅を広い通りで結ぼうと言う構想があるらしいが、その為に駅前にある磯崎新設計のインド砂岩で出来たユニークな銀行本店ビルを壊そうとして,猛反対にあったとか。この辺が文化に対する感度の差が現れる所だから,福岡市民のみなさん、役所にまかせてると文化遺産を失いかねないですからご注意を。

私の知ってる博多駅は,今の祇園辺りにあった。古風なちいちゃなルネッサンス様式の駅ビルで。今なら有形文化財登録していただろうに、という素敵な建物だった。ただ、不釣り合いな「日本食堂」の新館が継ぎ足された奇妙な駅舎と化していたが。駅前には松下電器の巨大な電球のイルミネーションが輝いていたのを覚えている。駅構内には輪タクやダットサンのタクシーが並び、赤帽が客待ちをする。プラットフォームはすぐ改札口から見えたし、駅弁売りが声をはり上げてホームを歩き回っている光景がまぶたに残っている。

あるとき,その博多駅の裏の何にもない畑の中に,突如巨大な駅ビルの建設が始まり、新博多駅(三代目だそうだ)が開業。そこは人参町という地名であった。そう人参畑がひろがるようなホコリっぽいところ。とにかくでかい建物だった。だって回りになんにも無い殺風景な場所だったから。駅前は再開発され、今の大博通りと住吉通りというまるで無駄にだだっ広い通りが出来た。その真ん中を市内電車が走っていた。

その三代目博多駅が今回、同じ場所に建て替わって四代目となったという訳だ。そういう意味で一世代前の博多駅が人参町の畑の中に出来た時程のインパクトは無い。地元の老舗デパート井筒屋が不振で撤退した代わりに、関西から阪急デパートが進出。東急ハンズが九州初出店。福岡から見れば初物づくしかもしれないが、東京や関西から見ればか代わり映えのしないオールドプレーヤばかり。もともと地元志向の強かった福博のデパート勢力図が「中央」の資本に取って代わられたという事がニュースなのかもしれない。

もっとも工事は大変だったようだ。在来線、新幹線を日常通り運行しながら、九州最大の乗降客を誇る駅機能を損なう事無く、その横に九州新幹線を工事し、新しいホームを新設し、さらにその上に新駅ビルを建設する。最新の工法とプロジェクトマネジメントの偉大な成果なのだ。称賛に値するプロジェクトだった。

しかし,それでもなにかあっけない気がする。JR博多シティーの売りである屋上の「つばめの杜広場」も千住博プロデュースの市民による手作りタイル壁も、巨大な商業主義にはかすんでしまう。確かにつばめの杜広場展望デッキからの博多の町の景色は新鮮だが、この屋上はデパートの屋上と何が違うんだろう。家族連れが列をつくってミニ「つばめ」の電車に乗るのを待っている。ベンチや飲み物を提供する店もある。デパートが週末の家族のレジャーランドだったあの頃と何も変わっていない光景だ。

そういえば5〜6年程前に再開発なった天神の西鉄福岡(天神)駅、ソラリアプロジェクトでも、地元の名門岩田屋がターミナルデパートの地位を捨て、天神電話局跡に移転。ソラリアビルには東京から三越が出店してきた。天神の交差点のランドマークだった旧岩田屋本店は、閉店後長く地元のT学園の所有物として無為の時間を過ごし、老醜を九州一の繁華街にさらしていた。最近、新装なって、これまた東京から西武グループのパルコが入った。今さら、パルコでもないだろう、三越でもないだろうに。

同様に、いまさら博多駅に阪急でもないだろう、東急ハンズでもないだろう... これが躍進著しい東アジアの玄関口、福岡の顔なのか?? ミニ東京化、大阪化という、福岡と言えど結局は地方都市の宿命みたいなものを背負っているのだろうか。

しかし、そうしたセンチメンタルな感情とは別に、あたらしい博多駅は九州新幹線の全線開業とあいまって、すごい集客力を持つようになった。鹿児島、熊本からストロー現象よろしく、買い物客を博多駅に吸い込む。みな博多駅から一歩も出ずに買い物して帰って行くのだとか... 博多港国際ターミナルに到着する韓国からの買い物客は天神と博多駅のどっちに行くのだろう。福岡空港からはどちらも地下鉄で一本でいけるが、博多駅はなんと言っても空港から二駅目という信じられない利便性だからなあ。

こうしていろいろ意見はあるが福岡市には天神と博多駅と言う二つの大きな商圏が出現したわけだ。もともと福岡市は、商業都市、国際貿易都市である博多と、関ヶ原以降に入府してきた黒田氏の城下町、福岡のツインシティーだった。鎖国による博多の没落、さらには明治維新に乗り遅れた福岡藩の冷や飯食いで、戦前は九州の通過都市としての悲哀をなめてきた福岡市が、ようやくかつての栄光の日々を取り戻しつつあるのかもしれない。二つの商圏の誕生はその再生のシンボルなのかもしれない。

それにしてもJR九州の経営感覚と行動力はすごい。水戸岡氏を起用して素敵な電車を走らせて,鉄道の楽しさ,かっこうよさを復活させただけでなく、集客効果を最大限活かして、周辺事業で成長戦略へ転換!連結ベースで発足以来の念願の黒字化を達成出来る見込みだとか。

九州の国鉄なんて,かつてはダサクて、不便で、汚くて、サービス最低の乗り物だったのに。市民の日常的な足としてではなく、大阪や東京へ行く時に乗る「汽車」、すなわち「あさかぜ」「「さくら」「みずほ」「はやぶさ」という看板特急のイメージはあったが、鹿児島本線や筑肥線を走る「汽車」は日に何本しか走らないし、駅は便利な所には無いので、用事で乗る事を想定していなかった,というのが本音だった。それをJR九州は変えた。

鉄道事業は、「焼き鳥の串」というのが私の持論だが、この天神と博多駅の賑わいを見てるとそれを実感する。
鉄道が客を集め、商売の機会を創る。焼き鳥の串は焼き鳥が焼き鳥である為に重要な役割を果たしているが、それだけでは価値を生まない。鉄道だけでは大きな利益を生みにくいコモディティー事業だ。しかし、一方、鶏肉やネギやつくねだけでは焼き鳥にはならない。両方相まって付加価値を生むのだ。すなわち鉄道を走らせて、エキナカビジネスやリゾート、住宅,地域開発などの周辺ビジネスで儲ける。人を集める工夫が大事だ。そしてそれを収益機会に仕立てる、なあんてね...

ビジネスとしての鉄道事業と地域再開発のシナジーという、商業的な経済合理性だけではなくて、歴史や文化に結びつくような価値の実現には、更なる価値イノベーションが必要のようだ。 門司港駅の建物ような気品と風格はもう駅には期待出来ないのだろうか。東京では赤煉瓦東京駅の復元工事が来年完了する。辰野金吾博士の残してくれた建築の復活を楽しみにしている。

ルネッサンス風建築の二代目
旧駅の南に移転した三代目


リニューアルオープンした四代目