資本主義に疲れると、大和古寺巡礼に出るとよい。特に人気の少ないこの季節は静かに曼荼羅の世界観に浸ることができる。
西の京は文字通り平城京の西に位置する。近鉄大和西大寺から一駅目の西の京駅を降りると、ここには薬師寺と唐招提寺という大和路の人気古刹が並び立つ。奈良市内からは随分と離れた郊外のような感覚だが、実はこちらの方がかつての平城京郭内で、現在の奈良市中心街や東大寺。興福寺のあるあたりは外京、すなわち平城京の東に突き出た別区のような地域だ。
ここ西の京駅に降り立つ人は、たいてい矢印に従ってまず薬師寺を拝観し、時間があれば唐招提寺へゆく。しかし私の場合なぜか順序が逆だ。唐招提寺へは必ず向かうが、薬師寺は時にはスキップしてしまう。今回もそうだった。何故なのか?あまりたいした理由は思い浮かばないのだが、なんとなく唐招提寺の方が好きだから。何故好きなのか?「好きだから好きなのだ」という「理由にならない理由」。あえて言うならば開祖鑑真和上の私を捨てて公に身を投じた波乱の人生を偲ぶにふさわしい落ち着いた佇まいだからか。
2009年に修理復元された唐招提寺金堂は天平の甍とエンタシスの木柱をそのままに、まるで改修されたことを感じさせないほどの元通りさ。何事もなかったかのように元の場所に静かに佇んでいる。一方の薬師寺は立派な朱塗りの金堂や西塔が再建され、目にもまばゆい伽藍がそびえ立っている。こちらは新築と言っていいほどの新しさだ。そして創建時のオリジナル建築物である東塔も「とうとう」囲われて修復作業中。元祖高田好胤師の説法・勧進プロジェクト始め、野外ライブも開催されるイベントフルなお寺だ。古刹のイメージを求める私にとってどちらが好きか、と言われれば...
人気の少ない初冬の唐招提寺はとりわけ静かで奥ゆかしい。その空気のなかには天平の時間が流れている。この季節の冬紅葉に鑑真和上の遺徳を偲ぶ。鑑真和上廟の苔にはらはらと散る紅葉、色のない風景の中に輝く冬紅葉の黄色い葉は、錦織りなす紅葉とは異なり、その激しく波乱に満ちた人生と、やがて訪れる静かな心の平和を象徴するようでよい。ここには私利私欲に満ちた資本主義のロジックを忘れさせてくれる心象世界が広がっている。
唐招提寺山門 昔ながらの佇まいだ。 入江泰吉氏のモノクロ写真の時から変わっていない。手前の道が舗装されたくらいか。 |
2009年に修復再建された金堂。 このシンメトリーな均整のとれた建築様式はこの寺を象徴している。 名残の紅葉が色を添える |
鑑真和上霊廟 |
金堂のエンタシス列柱 |
唐招提寺門前から薬師寺を遠望する |
以前書いた唐招提寺に関するブログ:
「そうだ鑑真和上に逢いに行こう」2013年
「真夏の唐招提寺に古代蓮を愛でる」2012年