ユニークなのは、広大な展示ケースの上部ガラスカバーを外し、全てのレンズが直接見えるように展示されている。触ろうと思えば触れる陳列だが、もちろん「お手を触れないよう」との注意書き。しかし、太っ腹だ。上面ガラスがないことで上からの照明がカバーに反射して、美しいレンズが見え難くならないように配慮されている。しかも、その照明にちょっとした工夫が。アクリルカバーで上手にデフューズされていてギラギラしない。そして、よく見ると星型とハート形の照明のコーナーもある。レンズの枚数と多層コーティングにその🌟と❤️の照明が映えてまるで色とりどりの宝石のようだ。昔のアンバーがかったコーティングのものから、最新のマルチコーティングまで、レンズよって彩りが異なることも新しい発見だ。最新のレンズはさらにレンガラスの透過性が高く、外からは内部のレンズが見えにくい。まるでブラックホールに吸い込まれるような感覚だ。しかしこうして光をあてると各層のレンズに施されているコーティングにより、多色の模様が多層的に浮き上がって見える。まるで宇宙を3D映像で見ているようだ。なんだか不思議な浮遊感を味わうことができる。なんと心憎い演出。レンズは撮影するための道具であるのだが、ここまで美しいとそれが鑑賞の対象になりうる。ニコンレンズの宇宙に吸い込まれる一日であった。
ちなみに撮影は、ニコンへのレスペクトとエールを込めてLeica M10+Apo Summicron 75/2で。あえてNikon D850+最新のAF Nikkorではなく永遠のライバル、ライカを持ち出すところに歴史的因縁のストーリーを思い起こさせる妙味がある。レンジファインダーで0.7mまでしか寄れないというライカレンズの近接撮影の限界(?)を超えて、一眼レフへのパラダイムシフトを果たしたF Nikkorという歴史的好敵手の極みを映し出すには、やはりこれしかないと考えた。ライカが美しいのかニコンが美しいのか。なんという贅沢な「至極の美」対決であることか。遊びの極致であるが。