2018年3月9日金曜日

私のニコン遍歴そしてNikon Df 〜カリスマ後藤フェローの世界〜

 
Nikon Df + Nikkor 45mm f.2.8 P


 先日、友人の紹介でニコンのカメラ開発をリードしてきたカリスマエンジニア後藤フェローにお会いする機会を得た。品川のニコン・ミュージアムを丁寧にご案内いただき、様々な貴重なお話を伺うことができた。ニコンファンとしてはこの上なく光栄なことである。後藤フェローは、熱意と冷静さ、いわゆるWarm Heart & Cool Head、気さくで偉ぶらないカリスマ技術者という印象の紳士であった。こういう方が世界に冠たる日本のカメラを生み出したのか、と思うと欣喜雀躍たる気分であった。日本の「オスカー・バルナック」と言っても良い。この世界では超有名人であられるし、ご自身の書かれた記事や講演も多数世に出ているので今更このブログで多くを語る必要はないだろう。ニコンの歴史を飾るフラッグシップシリーズ、F3からデジタルDシリーズ、そしてレジェンダリーDfの開発に携わって来られた後藤フェローのお話を振り返りながら、恥ずかしながら私のニコン遍歴を語ってみたい。

 私は長年のニコンファンであるが、ニコンの最新鋭機D850を手に入れてからはますますニコンファン度が高まっている。もっとも、学生の頃、社会人になりたての頃は、ニコンは高嶺の花、雲の上の存在であった。フラッグシップFシリーズなど、そもそも店頭に並んでおらず、手にする機会もなかった。アマチュアは注文すらできなかったように記憶する。学生時代は触れることすらなかった伝説のカメラだった。したがってファンといっても、最初は憧れるだけのニコンファン。やがて所有するニコンファン。そして使い込むニコンファンに向けて修行中というわけだ。そう考えると今は恵まれている。お気に入りのニコンに囲まれて悦に入っているのだから。

 私の一眼レフ第一号は高校時代に父に買ってもらったミノルタSRであった。50ミリ標準ロッコールレンズと135ミリの望遠ロッコールレンズ二本で撮影した。それでも贅沢な思いをしたものだ。社会人になって、新入社員として姫路に現場実習配属になった。その時、近畿地区に配属された同期の仲間でよく集まり、カメラをぶら下げて奈良、京都を歩き回った。仲間の一人がニコマートを持っていて羨ましかったことを覚えている。堅牢で無骨な出で立ちであったが、他を寄せ付けないオーラがあった。私は当時の給料(5万円ほどだった)ではニコンには手が出ず、父にもらったミノルタSRをぶら下げていた。ようやくニコンを手に入れたのは、1981年に恵比寿のカメラ屋でNikon FMを買ったのが最初であった。嬉しくて磨いてばかりいた。日本は高度経済成長真っただ中、結婚して生活も軌道に乗り、留学先のロンドンから帰って子供が二人になり写真を撮る機会が大いに増した時期であった。F3が出た頃はアマチュアでもFシリーズが手に入りやすい状況になったものの、なかなか新品のプライスタグには手が出ず、銀座の三共カメラでようやく中古を手にれることができた。この時も嬉しかった。これは二度目のロンドン赴任に持って行った。ロンドンの街や英国田園風景を撮った。その後しばらく忙しさにかまけて一眼レフを持ち出す機会が減り、もっぱらコンパクトカメラでスナップばかりの一眼レフ空白の時代が続いた。

 2003年、二度目の米国勤務でニューヨークに赴任した時に、最初のデジタルニコン一眼レフD70を入手した。発売とともに予約してマンハッタンのB&Hで買った。実用的なデジタル一眼レフ第一号の登場であった。ニューヨークマンハッタンの写真の数々はこのD70で撮った。東京に帰り、D300に買い替えた。これは人気のカメラであった。D200が登場した時迷ったが、我慢して次のD300登場を待って購入した。やがてフルサイズFXフォーマットのD700が登場したがまたこれをパスし、次のD800Eが2012年に登場し、D300とDXフォーマットレンズ群を下取りにしフルサイズへシステム移行を決行した。大阪勤務となり、関西の歴史ブラパチ散歩を大いに楽しんだ時期である。このD800Eカメラシステムが私の大和路紀行の写真作品、このブログ「時空トラベラー」フォトエッセイを生み出してくれたといっても過言ではない。これに先立つ2007年にニコン初めてのフルサイズフォーマットデジタル一眼レフD3が登場。これ以降D800などのFXフォーマットラインアップが揃った。高画素モデルのD800EのパートナーとしてフラッグシップのD3sを手に入れた。これは夜景など高感度撮影に威力を発揮し、なら若草山の山焼きや東大寺二月堂のお水取りの写真を撮った。

  2013年に登場したDfは衝撃であった。私のニコンデビュー機であるFM/FEを彷彿とさせるボディーデザイン復活にクラッと来た。あの苦労して手に入れたF3が防湿庫で眠っているのを悔しく思っていた時に、まるでデジタル化されたF3が登場したような感動であった。オーバースペックでなくバランスのとれた性能、信頼感、剛性感。シャッター音。Ai Nikkor レンズ着装を想定したデザインと撮影スタイルを大事にする配慮。昔からのファンを大切にする心、すべての点でニコンの技術と感性を体現した作品/お道具であると感じた。昔使ったオートニッコールやAiニッコールが現役でストレスなく使える。それだけでも感動である。なんとこのDfを企画開発した、その伝説の後藤フェローに今回奇しくもお会いする光栄に恵まれたという訳である。企画時点でかなり社内説得に苦労されたというお話を伺った。しかし、今でも人気機種で、中古価格もなかなか下がってくれない。シルバーボディーの方がやや人気があり、特に女性の間では圧倒的にシルバー支持。これ持っているとモテるそうだ。私もシルバーもう一台買うとするか、モテるんなら...  それはそれとして電子化されソフトウェアーデファインドカメラとなったデジタル一眼レフDfに宿る伝統的な理性と感性。まさにDurable, Dependable and Charming Nikon Dfだ。

 後藤フェローからこのDfの分解写真をお送りいただいたのでここにご披露させていただく。フィルムカメラに比べ、巻き上げ機構がない分だけ部品点数も少なくシンプルな構造だ。なのに、かつてのメカニカルフィルム機と同様の直感的操作を可能とする操作系配置になっているところが憎い。軍艦部がダイアルで賑わうその様はそれだけでもイチコロだ。一方、画像処理エンジンにフラッグシップD4と同じEXCEED IIIを採用。1625万画素CMOSセンサーを搭載、ファインダーは視野率100%、倍率0.7倍と、極めてハイエンドスペックを誇る高性能デジタル機である。分解写真をこうして見る限り、そのように見えないところがなんとも凄い。

後藤フェローからお送りいただいたDfの分解写真
部品点数が少ないのに驚かされる

 ニコンの信頼感はピカイチだ。高性能が過不足なく剛性感のあるボディーシェルにパッケージングされている。そして過去のレンズ資産が今でも現役で活躍できる。やっぱり私はニコンが好きなんだと改めて思う。こうしてファン度が高まっていってるわけだが、こうなるとニコンの歴代名機をコレクションしてみたい気になっていったのも不思議ではない。ちょうど90年代後半からの中古カメラブームもあり、銀座のカメラ屋巡りや、松屋の中古カメラ市などに足しげく通うことになる。大体、我々のような団塊世代は、若い頃ニコンやライカに憧れてもとても手に入るものではない。しかし「いつかはニコン」と夢見たものだ。それがそれなりの年になりそこそこ生活も安定、女房も強くなったが、それを説得できるだけの可処分所得も増えた。日本の社会も右肩上がりの繁栄の時代を迎えた。そしてあの頃夢見たニコンFやライカMが中古で手に入るようになった。それが中高年のクラカメブームの基層である。そこでニコンの往年の名機に出会った。その伝説の名機の堅牢な作りと金属度100%のメカニカルカメラの魅力にすっかりハマってしまった。戦後間もなく焼け跡から、ライカやツアイスに追いつけ追い越せと、苦闘し、試行錯誤した痕跡を随所に残すレンジファインダーニコンSシリーズ。それを吹っ切ってペンタプリズムニコンFにパラダイムシフトした勇気と自信。見事ゲームチェンジャーとなったニコン。日本の戦後の光学機器産業の歴史の生き証人たちが中古カメラ店のショーケースに並んでいる。壮観ではないか!まさに夢のような世界なのだ。ふとそのケースの中のクラシックニコンと目が合う。蠱惑的なレンズの深い瞳。ケースの中で私を手招きしている。これが出会いというものだ。連れて帰らねばなるまい。こうしてニコンファミリーが増えて行った。

 後藤フェローはこうしたニコンカメラの開発の歴史をたどり、後世に残す仕事もやっておられるという。ご自身は「電気屋」としてカメラの開発、製品化に取り組んできたと語っておられた。Nikon SとNikon D850とでは、同じNikonブランドの撮影道具であっても、心臓部の撮像技術は銀塩フィルムというケミカル技術と光学技術、それに歯車とバネのメカニカルな装置から、いまや全く異なる技術に入れ変わっている。F3開発時代にカメラにエレクトロニクスが入ってくることに抵抗を感じる技術者、ユーザもいたそうだ。いまはコンピュータベース、すなわちソフトウェアーで動くカメラになっているわけだからカメラを支える技術は大きく変遷した。その過程の一つ一つををトレースし全体を俯瞰してみることは、これからの社会、産業のデジタルトランスフォーメーションの時代を読む上で貴重なヒントを与えてくれると思う。


過去のブログ:

2013年11月3日:

Nikon Df 発表! 〜オールドニコンファン待望のデジタルF3?登場〜

https://tatsuo-k.blogspot.jp/2013/11/nikon-dff.html


2013年12月3日:

Nikon Df 降臨! 〜Ai Nikkorレンズ群 撮影最前線に復活!〜

https://tatsuo-k.blogspot.jp/2013/12/nikon-dfai-nikkor.html



品川のニコンミュージアムにて
Nikon Df + Nikkor 45mm f.2.8 Pで撮影


Nikon Df + Ai Nikkor 50mm f.1.2での作例:


開放絞り

開放絞り

開放絞り
開放絞り


絞りf.8
絞りf.2