紅葉を巡る旅の最後は奈良。限られた時間内に錦織りなす秋を楽しむなら奈良公園。まずは、300年ぶりに再建なった興福寺中金堂を拝観。仮金堂から遷座された釈迦如来座像を堂外からも正面に拝観することができる。興福寺は明治の廃仏毀釈で多くの堂宇が破壊され、つい最近まで残っていたのはわずかに五重塔と東金堂そして南円堂、北円堂、三重塔のみ。その五重塔も廃材として当時の金で二十五円(二百五十円という説も)で落札されたが、取り壊しになる直前に周辺住民の反対で取りやめになったという逸話が残っている。この時、興福寺、大乗院、一乗院に所属の僧侶の多くは還俗し春日大社の神官になったといわれている。中金堂は江戸時代に消失して以来再建されなかった。創建1300年の藤原一族の氏寺にして、南都北嶺(奈良興福寺と比叡山延暦寺)としてその勢力を誇った大寺院は、見る影も無い有様であった。境内の多くの築地塀も撤去され(一部痕跡が残っているが)、広大な旧境内の敷地は奈良公園になった。興福寺はこうして奈良公園の中に寺域もはっきりしないまま存在する形となる。
今回は、興福寺、飛火野、浮御堂、東大寺、大仏池、依水園、吉城園、そして最後に奈良県庁屋上からの展望という2時間ハイライト周遊コースをとった。奈良市内は大阪勤務時代に何度も歩き回ったコースだから目をつぶっていても廻れる。もっともこの紅葉の美しい季節、目をつぶっていては勿体無いのでしっかり目を開け、カメラで出来るだけ多くの紅葉ショットを切り取るよう心がけた。奈良の寺は京都の寺と異なり、国家鎮護の仏教教学の拠点として創建された。むしろ現在の大学のような存在であった。東大寺然り、唐招提寺然り。または薬師寺の世に天皇家の創建になる寺か、この興福寺のような藤原家の氏寺である。国家、為政者の威信をかけた壮大な伽藍を有す巨大な寺院で、現世利益を願い、極楽往生を願う庶民の信仰の場して創建されたわけでなかった。現在でも、京都の寺のように紅葉の名所として、観光客が巡るような雰囲気ではなく、狭い境内や庭園が人でごった返すというようなこともない。しかし、紅葉の穴場スポットは確実にある。観光客で溢れる定番の観光コースから少しだけ離れるだけで良い。観光客はそれを知らないだけだ。こうして穴場巡りをするのが奈良における紅葉探訪の醍醐味だ。
慌ただしく京都、大阪、奈良と紅葉を巡る旅を楽しんだが、ふと落ち着いて考えると不思議だ。何がって、どうして人はモミジの葉が赤くなったり、イチョウが黄色くなったりするのを見るために東奔西走するのか。春の桜狂躁曲とともに、季節の移ろいを感じる秋の紅葉狂躁曲。慌ただしく早くも「見頃」から「散りゆく」に変わる季節。人は、いや日本人はどうしてこんなに桜や紅葉に反応してしまうのか。観察していると外国人観光客の中国人も欧米人も、紅葉に反応してシャッター切る人は少ない。餌をねだる鹿に盛んにシャッター切っている。四季の移り変わりを楽しみ、自然と共生する。それが温帯モンスーンという「風土」に暮らす日本人の性質なのだろうか。そういえばイギリスの田園。丘陵地帯の黄葉/紅葉も素晴らしかった。ハイドパーク、ケンジントンガーデンのプラタナスの黄色が鮮やかであった。アメリカのアパラチアトレイルやベアーマウンテンの全山真っ赤!という鮮やかな紅葉のスケール感も圧倒的であった。しかし、それを見にわざわざ出かける人も、シャッター切りまくる人もそれほど居なかった気がする。その季節だから道路が渋滞する。列車が満席だ、宿が取れない。そんなことはなかった。山が赤い!綺麗だ!でもそれがどうした?という反応だ。National Geographic Your Shotに紅葉写真を投稿してもそれほどの反応がない。「お花見」や「モミジ狩」騒ぎは日本人だけなのか!ちなみにこのNatGeoに風景投稿してみると面白いことがわかる。日本人にウケる写真とがそれ以外の国の人々にウケる写真が違うことがある。反応が一様なのは「花」の写真。京都の寺の紅葉などの「景観」には潜在的な期待感があるなしでウケが大いに異なることを発見した。面白いものだ。
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再建された興福寺中金堂 |
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御本尊、釈迦如来を堂外からも拝める |
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春日大社表参道から脇にそれてゆく |
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茶屋 |
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深山幽谷の趣 |
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晩秋 |
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浮御堂 |
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手向山八幡宮 |
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東大寺大仏殿裏の二月堂へ続く道 |
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東大寺大湯屋 |
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東大寺大仏殿裏 |
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大仏池 |
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東大寺大仏殿 |
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東大寺塔頭指図堂前の紅葉 |
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依水園と吉城園 |
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依水園正門 |
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奈良県庁屋上からの展望
東大寺南大門 |
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こんなところに洋館が!
奈良国立博物館 |
(撮影機材:Leica CL, Vario-Elmar-T 18-56 ASPH, APO-Vario-Elmar-T 55-135 ASPH, Super-Vario-Elmar-TL 11-23 ASPH)