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2013年4月5日金曜日

Leica M (Type240)の使用感など ーライカのジレンマー

 2013年初旬発売とアナウンスされていたLeica M(Type240)は、やっと3月20日に発売開始となった。初期販売は数量が限られていたようだ。去年10月のフォトキナ発表時にマップカメラで予約していた私はラッキーにも発売日に手に入った。待ちに待っただけに嬉しい!うわさによると10台しか入荷しなかったとか。今後、予備バッテリーは5月、ハンドグリップは6月、Rレンズ用アダプターは7月とアクセサリー類が順次発売となる予定だとか。なんでさみだれ式に出てくるんだろう?

 今回も、M購入に当たっての最大のハードルはもちろんその価格。ライカ製品の場合、その価格ゆえにいつも資金調達と機材の入れ替えに頭を痛めることになる。結局、いろいろ問題続出で私にとって相性の悪かったM9と、フィルム時代に別れを告げるために愛用のM7を下取りに出して、出費の極小化を図ってゲット。今度こそと期待している。


1.  M9との比較を念頭に、思いつくままのファーストインプレッション:

1)ボディーサイズはM9とほとんど変わらないが、重さが100gくらい増えた。しかし親指レストがあるのでホールドはよい。貼り革も好きな感触だ。掌(たなごころ)での転がし感は上々。

2)液晶画面の大型化に伴い、背面レイアウトが変更に。設定メニューは豊富になり、分かりやすい分類で好ましい。操作はライカ独特だが慣れれば違和感なし。

3)防水防滴シールドを実感する場面にはまだ遭遇していないが、シャッターの静音化に貢献している事は実感する。

4)2400万画素フルサイズCMOSセンサーはISO感度幅,ダイナミックレンジともに改善し、画質はあきらかに良くなった。ローパスフィルターレスは継承。M9の1800万画素CCDセンサーに比べて色味が変わった、という人もいるが私にはこちらの方が好きだ。少し暖色系か。少しアンダー目?

5)ISO感度は200-3200から100-6400に拡張可能。シャッター速度下限とISO感度上限を設定してのISO感度オートが出来るようになった。高感度ノイズも不快なほどではなく、フィルムの粒状感に近い感じがする。

6)マルチ測光と中央部重点測光、スポット測光を選べる。また従来のようにシャッター幕の白い部分の反射で測光する(クラシック)と、シャッターを上げて測光する(アドバンスト)が選べる。

7)M8以来の問題であったホワイトバランスはWBオートでも色が暴れる事が少なくなり落ち着いたようだ(M8、9のそれはライカの「個性」や「特色」ではなく、「欠陥」ではないかと感じている。少なくとも私とは相性が合わなかった)。

8)画像エンジンがS2と同じLeica Maestroになって画像読み込み速度が速くなった。全体としてレスポンスが大きく改善した(M9が遅すぎだった)。連写は2コマ/秒から3コマ/秒になったが7枚が限界。あまり使わないが。

9)しかし電源オンからカメラ起動するまでやたらに時間がかかるのはなぜ?(計ったら6秒もかかった)。常時電源を入れておかねばシャッターチャンスを逃してしまう。

10)3型92万ドット液晶モニターははるかに高精細で見やすくなった(M9のオマケのような2.5型23万ドットのモニターが貧弱すぎたとも言える)。カバーガラスはコーニングのゴリラガラス(いかにも強うそう!)で強化。ライブビューを取り入れた以上当然の措置だが。

11)Leicaにとって画期となるライブビューの仕組みは、シャッター幕を上げて直接センサーにあてて観る、Nikonなどの一眼レフのライブビューと同じ仕掛け。ライブビューに切り替えるとシャッターが上がる音がする。

12)ライブビュー時の拡大表示(フォーカスズーム)は五倍、十倍と選べる。ピントリング回すと自動で拡大表示出来る設定(オート)があるのは素晴らしい。光学ファインダの欠点を補い、細かいピントを確認出来るようになった事は大進歩だ。これからはRレンズのうちの望遠系、マクロ系のレンズの活躍が期待出来る他、新Mレンズの登場が予感される。もちろん超広角系レンズも外付けファインダー不要となり、使い勝手がよくなる。

13)しかしピント合わせのフォーカスピーキングが機能しているのか?合焦部分に赤いフリンジが見えるとしているが、かすかに見え隠れする程度? 絞りによるのか、レンズによるのか、とにかく分かりにくい。ライカショップ銀座のサービスに電話で聞いたが、「はっきり見えるハズ」の一点張り。私の眼がおかしいのか?

14)ライブビューモードにすると、一枚撮影するたびに読み込みに時間がかかり、スナップ連写できない。シャッターにもややタイムラグがあるようだ。光学ファインダーでピントを合わせて撮影した方がサクサク行く。やはりライブビューは光学ファインダーの補完的扱い?

15)ファインダーのブライトフレームはLeica M9 Titaniumと同じLED方式になった(したがって採光窓が無い)。フレームは白と赤が選べるが見え方はどちらも良好。

16)ビデオ機能は、私は使わないのでホントは要らない。したがって少なくとも誤って押してしまう事が無い位置にボタンが配置されているコトはうれしい。

17)外付けEVFが使える。しかし、プラスチック製のオリンパス/Leica X2兼用のEVFは、Mには似合わないし邪魔になるので好きではない。使うとしても価格が半分以下のオリンパス製で充分。

18)M9のバグの多さには閉口したが、Mはどうか? 今のところ遭遇してないが...  特に私の購入したM9の初期ロットはバグや不具合が多くてファームウエアーアップデートで改良されたものもあるが、何度かサービスに出した。ライカ銀座店の対応はよかったが、価格が価格だけにかなりがっかりした。

19)リチウムイオンバッテリーは、ライブビュー等に対応するためかなり大型になったが、性能は改善されたようだ。少なくとも充電速度は速くなった。

20)SDカードの相性問題は解消されたのだろうか? 一応全てのSDに対応、と取り説には書いてある。SunDiskのExtreme Pro 32GB(SDHC UHS-1)を使っているが今のところ問題は起きていない。M9では、書き込み速度の遅い、容量の少ないローエンドのSDカードしか推奨リストになかった。

21)シャッター音が静かになった。AEロック、シャッターレリースとツーストロークでシャッターが落ちるので軽いタッチになった。これはいい。ライカらしいフィーリングだ。だからかM9にあったディレードモードは無くなった。シャッターはM用に全く新たな設計となったそうだ。

22)露出補正は前ボタン押しながら親指でダイアルを回して行う。前ボタンがフォーカスアシストと兼用になっていて、しかも押しにくいのでまだ慣れない。M9のようなシャッターボタン半押しで直接リングで補正とはいかない。

23)取り説が極めてアナログな文章で書かれており(かつ日本語版はドイツ語から翻訳してあるので)かったるくて分かりにくい。日本向けの欧米の製品によくあることだし、別にビックリはしないが。


2. デジタルカメラ「Leica M」はどこへ向うのか:

 私の印象では「デジタルカメラ」としての総合点は、40点からようやく70点になったと感じる。赤点は脱した。M8、9がとりあえずM6、7のフィルムの代わりにCCDセンサーを詰め込んだという感じで、デジタルカメラとしては非常に原始的で未完成、操作性、パフォーマンスに疑問があったのが、やっと普通になったという感じだ。しかし、依然デジタルカメラとしてはハイエンドとまでは言えず、価格が価格だけになんかスッキリしないクラムジーさが残る。Mレンズ群の感性を刺激する圧倒的な画質、諧調の豊かさ、作りの良さというプレミア性能がファンを魅了して来ているだけに、レンズ資産とデジタル化されたボディーのマッチングに苦労するライカの姿がそこにある。ライカジレンマだ。

 しかし,今回のリニューアルは、ライカとしてはかなりのレベルまで進化した。ライカもここまで来たら,今後は光学レンジファインダーカメラの特性(限界)から来る以下のようなカラを打ち破る時期に来ているのかもしれない。今後どのように挑戦するんだろうか?
・単焦点レンズ中心(広角レンズよりのラインアップ)でズームレンズなし。
・望遠に弱い(135mmがレンジファインダーの限界)。
・最短撮影距離70cm。マクロに弱い。
ついでに、
・AF対応なし。
・ボディー側手振れ補正機能なし。
・X100やX Pro-1のようなハイブリッドファインダーなし。
  ・ダストリダクション対策なし。
デジタル化はボディー設計のみならず、今後のレンズ設計にも大きな変革をもたらすはずだから、当然ライカ社は新レンズの開発を視野に入れているだろうと思う。確かに古いRレンズの優秀なマクロレンズや望遠系をアダプターを介して活用出来る事は嬉しいが、新しいMレンズのシリーズを期待する。

 デジタルカメラシステムとしての総合的な機能向上という点では、やはりニコン、キャノン、富士フィルムやソニーの背中はまだ遠い気がする。特にその価格に対するパフォーマンスには複雑な気持ちで接しなくてはならない。
 例:
 Sony RX1の35mm固定焦点レンズ付き:25万円
 Nikon D800Eボディーのみ:30万円
 Fujifilm X Pro-1ボディーのみ:12万円
 Leica Mボディーのみ:75万円
この価格差をどう見るか?もっともこのような比較をすること自体がナンセンスだという気持ちもどこかにあるが...

 それでもライカのデジタルカメラとしての完成度が大きく前進した事はうれしい。そのボディーで優れたライカMレンズ群とさらに7月のアダプター発売以降はRレンズ群が堪能出来ると言う事は素晴らしい。しかし,その分ライカらしさ(どのような?センチメンタルな?)が失われ、普通のカメラ(コモディティー化?)になったのかもしれない。それが古くからのライカファンにとっては不評なのだろう。でも、そもそもデジタル化した時点でライカはそのアナログ時代の独自世界から大きく一歩踏み出してしまったのだから,後へは戻れない。前進あるのみだ。

 ライカはもともと使い手におもねる事の無いシンプルなカメラ、使い手に慣れる事を求めるカメラだが、デジタルカメラ化する以上、「ライカはライカであるが故に尊い」「ライカブランドだから許される」という神話はもはや受け入れられないだろう。でないと「裸の王様」になってしまう。特に価格に見合ったデジタルカメラになる事が期待される。ライカはどこへ向うのか?ライカMの立ち位置がこれからの課題だろう。


3. 私が期待する今後のライカMの方向:

 まずデジタルカメラとしての機能、パフォーマンスをさらにブラッシュアップし、イノベーティブな機能を積極的に開発導入する。その競争に勝てる事がまず基本だろう。その上でヴィンテージ「ライカブランド」を彷彿とさせる、より感性を刺激する付加価値(職人技、金属度/剛性感、画造りの良さ、プレミアサービス等)で差異化する。

 さらに、道具としてのカメラのブラッシュアップが、光学的、機械的な工夫でパフォーマンスを上げるアナログカメラ的な設計手法に寄らず、いわば「ソフトウエアーディファインドカメラ」というデジタル化手法に依存することが避けられないならば、それに合わせたカメラコンセプトのパラダイムシフト、さらにはカメラ事業モデル変換が不可避だろう。

 今後カメラは、デジタル技術のさらなる進展により、益々商品ライフサイクルが短くなり、コモディティー化も進む。しかし,一方でそこに新たな付加価値を加える余地も広がっている。モバイル、WiFi、高速ブロードバンド回線を通じてネットにつながるデバイスとして、撮影後の処理、楽しみ(レタッチ、整理、SNSでの共有、スライドショー、アーカイブ等々)にユニークさを実現したり、こうしたフォトグラファーにとって表現方法の多様化が、プリントやフォトブックの制作、ギャラリーやワークショップといったリアルな活動と連動していったり、「モノとしてのカメラ」から「コトとしてのフォトグラフィー」の楽しみを提案してくれる事を期待したい。「よい道具を持って所作を楽しむ」、それがライカのブランド価値だ!それがユーザーにとっての付加価値であり、ライカ社の事業としての成長の道だと思う。

 すでに日本のいくつかのカメラメーカー、フィルムメーカーはそうしたパラダイムシフト、ビジネスモデルイノベーションを果たしつつあるので、ライカはそれを越える新しいパラダイムを提案してもらいたい。そうしたいわば「ライカエコシステム」を創造してくれるとファンとしては幸せなのだが。




(正面で目立つデザインの変更は、ファインダー内のブライトフレームがLED照明になったため、採光窓がなくなった事。そしてブライトフレーム切り替えレバーもなくなった。真ん中の赤いライカロゴは大きくなり、より目立つようになった。Mロゴの下のボタンは,フォーカスアシスト/露出補正用。)




(背面で目立つのは,なんと言っても大型化された液晶モニター。ほとんどボディーからはみ出している。ボタン類のレイアウトや機能割当が変わったが、操作性は悪くない。右上の親指レストは小さいが、ボディーのホールド性を充分高めている。左の一番上のLVボタンがライブビューボタン。)

 以下の作例は全てSummicron 50mm f.2で撮影。DNGで撮り、補正を加えずに現像でJPG化した。M9では「撮影後は付属のLightroomで調整してください」だったが、Mは撮って出しで、充分ライカらしい画がそのまま楽しめる。