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2022年10月1日土曜日

江戸城再発見(3)〜江戸城の遺構を愛でる 「石垣と土塁」編〜

 江戸城遺構探訪「石垣と土塁」編。


江戸城の石垣には伊豆半島から運ばれた切り石が多く使われている。なぜ伊豆なのか。良質で硬質の安山岩が豊富に産出したこと。陸路よりも海路を使って江戸まで容易に運搬できたことが理由である。伊豆の東海岸には多くの石切り場の跡があり、稲取では今でも石切出しに関連したまつりが伝承されている。また海底には多くの沈没切石がある。きっと積み出し時にかなり沈没、落下したのであろう。江戸まで運べた確率はどれくらいであったのだろう。関東の城は土塁が多く、石垣を張り巡らしたのは小田原城と江戸城だけであった。小田原城は伊豆に近く切石を調達しやすい位置にあった、関東地方は関東ローム層のため良質な石材が入手困難であったことがその理由の一つであったと言われる。江戸城再構築に当たっては、家康は小田原城とその城下町の縄張りをモデルとして研究した。この江戸城の石垣は築城の名手といわれた加藤清正や藤堂高虎、黒田長政などによって築造された。しかし、本丸以外の西側の吹上、西の丸、そして北の丸は、土塁と石垣を組み合わせたユニークな三段構造となっており、江戸城独特の景観を生み出している。三代将軍家光の時代の1650年以降は、精密な石積み技術が開発され、主として本丸構築に用いられている。

ここで江戸城で取り入れられている石垣の積み方、石の加工方法について解説しておきたい。

石垣の積み方:

「乱積み」
目地が揃っていない石を積み上げたもの。 汐見坂の一部など築城初期の積み方。

「布積み」
目地が揃って石のつなぎ目が横一列になるような積み方。 一方で上下の石を縦一列にならないようずらして積み上げ崩落を防いだ。1650年以降の築造に使われれた。東御苑内/本丸に多く見られる。特に天守台、本丸に続く城門の石垣に用いられている。

「算木積み」
石垣の角、隅を長方形の石材を縦横交互に重ね合わせて、石垣が壊れないように強度を高める積み方。

「野面積み」
鎌倉時代末期の工法で、加工されていない自然石をそのまま使って積み上げたもの。荒々しいが排水性に優れ強い強度を維持できる。穴太衆の「穴太積」は元々はこの「野面積み」であった。江戸城内には北詰門の石垣の一部以外は見当たらない。

石の加工法:

「打込み接(ハギ)」
隣り合う石の隙間を加工してなるべく平面にしたもの。さらに隙間を間詰石で埋めていく工法。家康による江戸城改修時(1606年)のもの。外濠や日比谷濠、桔梗濠、白鳥濠などの内濠、本丸外周の高石垣など、多くの場所で見ることができる。

「切込み接(ハギ)」
角や面、表面を徹底的に平らに加工した四角い石材を、石と石の間が隙間なく密着させて重ね合わせる大変手間のかかる加工。1615年以降に多用された工法。本丸の百人番所向かいの「中之門」はそのお手本のような美しい石垣。天守台もその代表例だ。本丸に至る城門の石垣はこの精密な石加工と積み上げ技術を駆使して美しく作られている。

土塁

江戸城のもう一つの特色は、土塁と石垣の組み合わせである。水面に近いところを石垣とし、その上に土塁を積み上げ、さらにその上に石垣を築くという三重構造。関東の城に多い土塁と、西国の城に多い石垣を組み合わせた江戸城独特の景観を生み出している。
西の丸、吹上、北の丸の濠はこの土塁+石垣で囲まれている。


桜田濠土塁の三段構造
水面には土塁が壊れないよう石垣を、その上に土塁、さらに上に石垣を築いて強固にした

水面の石垣がわずかにのぞいている


西側の土塁に囲まれた桜田濠は江戸城独特の景観

吹上御苑の土塁

土塁が美しい曲線を描いている

桜の季節の千鳥ヶ淵
北の丸の周濠も三段構造の土塁が巡らされている

桜田門の枡形は石垣で囲まれている

桔梗濠の石垣


大手門の石垣は「打込み接ぎ」「布積み」



石垣模様パターン集。
カラフルな石の組み合わせによる模様と、カミソリの刃一枚通さない精密な密着技術を駆使した石垣は、まさに芸術作品を見るようだ。








「切込み接ぎ」の「布目積み」の典型例
本丸百人番所前の「中之門」

三の丸入り口の石垣

「切り込み接ぎ」で加工された石

これは何積みなのか?

天守台の石垣
1657年の明暦の大火以降に再建されたものである。記録では加賀前田家が穴太衆の石工を集めて構築したとある。穴太衆といえば「穴太積」すなわち「野面積み」と考えられがちであるが、穴太衆は長い歴史の中で様々な技法を開発して現在にまでつながる専門技術集団を形成している。


天守台

背面から見る姿もまた素晴らしい

精密な石垣築造技術による芸術作品とも言える天守台石垣
「布目積み」と両端の「算木積み」で構成されるフォルムがシンメトリーで安定感を生み出している

強度のある安山岩で組み上げられた天守台
「切込み接ぎ」「布目積み」の傑作


天守台の「算木積み」

「打込み接ぎ」石の「乱積み」と「算木積み」の例

皇居正門(二重橋)の石垣も「打込み接ぎ」と「算木積み」
江戸城時代は西の丸大手門であったところ

富士見多聞櫓の高石垣

「打込み接ぎ」と「算木積み」
本丸の高石垣

白鳥濠石垣

本丸白鳥濠の高石垣
築城初期の石垣

こちらは「切込み接ぎ」と「算木積み」で安定感がある

平川濠の石垣 「打込み接ぎ」
ここも築城初期の石垣

平川濠の石垣
左右対象の「算木積み」が美しい


一橋門
外郭の門は取り壊されて石垣のみが残る