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2014年5月30日金曜日

Leica Tの使用感ファーストインプレッション 〜AudiにはAudiのエンジンを!〜

今回はシルバーが先行発売。ブラックも追って発売される予定。
 5月26日、日本でも発売になった話題のライカTシリーズ。ミラーレス機戦国時代に殴り込んで来たドイツ製のニューフェース。例によって今回も実機を入手しテストする機会を得たので、取り敢えずのファーストインプレを。

ボディー:

 アルミ削りだしのボディは噂に違わず、ソリッドで堅牢感があり、金属質満点の素晴らしい手触り。シンプルで素晴らしいデザインだ。特にホールディングがとてもよい。眺めているだけでも上質感が伝わってくる。すぐ好きになった。重さも軽すぎず、重すぎず、適度な手応えでバランスがよい。この質感はたまらない。




 ライカは伝統的にラウンドボディーで、ず〜とこれが人間のエルゴノミクスに最もあった形状だ、と言い聞かされてきたが、正直ホールドには危惧があった。特に最近の厚みと重量を増したボディーとレンズ。それに外付けファインダーなどを付けると結構な重量(普及型のデジイチ以上に重い)があり、かつバランスもよろしくない。したがって必ずグリップを付けていたが。逆にコンパクト化されたカメラでは握るところを求めて、指が右往左往することも。Tは適度な指がかりとやや横幅のあるシェイプで気に入った。ちなみに、このボディーの削りだし、研磨の工程はポルトガルの工場で行われているそうだ。

 背後の液晶画面がAppleのiPadやiPhoneと同じ感覚で操作できるタッチスクリーンと話題になっているヤツだ。確かに、画面が広く操作しやすい。ピクトグラムも慣れれば分かりやすい。右手でグリップしても、誤ってボタン類に触れたり、タッチスクリーン誤動作を招いたりし難い位置取りになっている。
アルミ塊からの削り出しボディー

 レンズ:

 レンズはVrio Elmar T18−56mm f.3.5-5.6 ASPH.の標準ズーム(Madein Japanだが、メーカーは明かされていない)。外見は何となく普及型ズームのイメージで、軽くてMレンズなどと比べるとやや安っぽい感じがする。金属(アルマイト)ボディーだと言われているが、繰り出し鏡胴はプラスチックだろう。フードはプラスチック。絞りリング無しは想定内だが、距離計リングは距離目盛り無しで、富士フィルムXシリーズレンズに似ている(操作感もフードの形状も、レンズキャップも、一回り小型で簡素化したFujinon 18-55だ。ひょっとしたら?.....)。X VarioのAFとMFをリニアに切り替えられる距離目盛り付きのリングは良かったのに。またX VarioのVario Elmarは望遠端が70mmだが、最短撮影距離が30mmと近接撮影が出来、良好なMFのピントアシスト機能とあいまって、花の撮影などに威力を発揮できた。Tのほうは望遠端は84mmとなったが、最短撮影距離は45cm。広角側27mmの最短撮影距離30mmとなったので、やや近接撮影には不向きになってしまった。残念だ。

 外見は別にして、写りに関しては、ライカのレンズ設計チーム渾身の製品だというから、ライカ伝統のうっとりするような画質を大いに期待している。下記の作例を見る限り,かなりの高画質で、さすがという他ない。一方、デジタルカメラらしくボディー側ソフトでのレンズ補正も使っており、優等生的な写りだ。これまでの単焦点Mレンズのような個性は無くなった(ユーザとはわがままなものだ)。これから、いろいろなシチュエーションでじっくり撮り比べてみたいものだ。

 全体バランス:

 レンズを装着した姿は、一見ソニーα(旧NEX)シリーズだ。私はかつて、このNEXの、レンズ部分が大きくて、ボディーがスリムすぎるアンバランスな姿が嫌いで、所有していたNEXシリーズをレンズ共々売っぱらってしまった。まさかライカで復活するとは...(複雑な心境)。街を歩くとカメラ女子が首から下げているSONYミラーレスとLeicaTがオーバーラップするのはどうにも切ない。デジャヴだ。 特に黒鏡胴レンズはシルバーのスリムなユニボディーから飛び出して見え、バランスがどうなんだ? M用のシルバー鏡胴レンズをT/Mアダプターで装着するとサマになる。Tシリーズのズームレンズの場合、黒ボディー(7月か?とうわさされている)の登場が待たれる。

 しかし、新デザインのストラップ、カラフルなアクセサリー類と、フラッシュサーフィスのアルミインゴットボディー。ライカの新ズームレンズとの組み合わせは、あらたなブラパチファッションを提案しているようだ。街歩きカメラ女子にはピッタリの機材だ。ライカ好きのオジさん達に似合うか、チョット心配だが。

 操作感:

 さて、操作してみよう。
 おや?なんかおかしな操作感だ。

 まず液晶モニターが暗い。輝度設定が出来ないようだ。露出補正をマイナスにすると、暗くて見えなくなる。こりゃ困った。見難いモニターなのか?EVF使用が前提になっているのか?

 次に露出補正。私は露出補正を多用するのでこれは大事だ、しかし、タッチスクリーンから呼び出して設定し、しかもSETボタンを押さないとまた補正0の戻ってしまう。撮影中に4段階の手数をかけないと露出補正出来ないのでは間に合わないので、左のリングに割当てたいのだが。マニュアル読んで、やっと割当設定する。しかし、登録した設定がスイッチオフで初期設定(ISO設定)にリセットされてしまう。なんじゃこりゃ?

 ホワイトバランスオートで室内ミックス光源のもとで試写すると、やたらに黄色くなる。角度を変えて撮影してもなんか不自然な発色だ。オートで「色が暴れる」という、M8出たての頃の安定しないホワイトバランスが復活したような...不安がよぎる。

 やれやれ、もうその時点で、暗澹たる気分で、カメラを投げ出したくなったが、ふと開封の儀を厳かに執り行ったあと、転がしてある箱を見ると、ファームウエアーをアップグレードしてください、との5月19日付けメモが入っている。工場出荷時のファームウエアーのバージョンが1.0 。買ったばかりなのに既に古いのか?ユーザの手に届くときにはバージョン1.1にアップグレードしなくてはならない。ライカ社HP(これもライカ100周年記念で最近更新したらしく、デザインは素敵になったが日本語サイトがしばらく工事中であった。)で、このアップグレードで何が改良されるのか調べる。「T本来の機能が十分に発揮できるようになります」と書いてある...。いちいち引っかかるようだが、本来の機能が十分発揮できない状態で出荷してしまいました、ということを言ってるのか。

 まあいい、とにかくアップグレードすると(インストールに90秒ほどかかったので結構なファイル容量のようだ)、先ほどのおかしなバグや不具合が消えた。なんだか別のカメラになったような気分だ。工場出荷時にバグ取りが間に合わなかったのか?

 バージョン1.1での使用感。気を取り直して:

 Tに搭載されている1630万画素のAPS-CサイズCMOSセンサー(SONY製)や画像エンジンMAESTROは基本的にはX Varioと同じものを使い、T用にチューンしたと、ライカ社開発担当は言っている。

)しかし、同じAPS-C CMOSセンサーのライカなら、個人的にはX Varioの方が好きだ。何と言っても画が美しい。解像度、画の立体感、時々Mを越えているんじゃないか、と思うほどだ。望遠側での近接撮影時のボケ味も最高。同じセンサー、画像エンジンを流用しながら,Tは何をどうチューンしたんだろう。やはり固定レンズ+専用ボディーのXならではの味だったのか。もちろんちょっと触ったぐらいで結論出すのは早計だが。

2)直感的には、ソニーや富士フィルムのミラーレス機の方がきめの細かい配慮と、確実な操作感、信頼感があるように感じる。もちろんTのタッチスクリーンによる操作はユニークだが、実際の撮影現場での使い勝手が気になる。使い込みがいるんだろうな。

3)液晶モニターは大きくて視認性が良い(バージョン1.1で輝度調節も可能になった)が、意外にピントの山が掴み難い。やはり外付けのEVF(Visoflex)を買えってコトか? 特にMFでのピント合わせはX Varioの方が使いやすい。X VarioのMFアシストは外付けEVF使わなくても十分で、優れている。晴天の屋外の光あふれるなかでの液晶モニターでのピント合わせはキツい。EVF内蔵はなぜパスされたのだろう。まさかVisoflexという往年の仕掛けにこだわった訳ではあるまい。

4)AFが遅い。コントラストAF一本で、位相差AFを取り入れない一世代前のAFだ。ピント精度は高いが、速度が遅い。暗いとピントが合わない。その他にも苦手なシーンがありそうだ。X Varioは(それに備えて?)リングをそのまま回すとMFに切り替わり、かつMFアシスト機能が働いて、ピント部分の像が拡大される。これが実際の撮影現場では、撮影作業が滞らず非常に便利である。Tではそれが無くなって、いちいちタッチスクリーンでAF/MFを切り替える必要がある。もっとも、はじめからTもXも、最近の富士フィルムXシリーズやソニーαのように、AF合焦スピードが速くて、サクサクいってくれれば問題ないのだが。せめて遅い分を補完するためにマニュアルでの操作性でカバーしたXは良かった。

5)タッチスクリーンでの再生(Play)画面のスクロール(ページめくり)が遅い。X Varioよりはマシになったが。電源オンから起動まで1秒くらいかかる。M240よりはマシだが。全体にレスポンスがまだ遅い。いまだスローなカメラという印象だ。一枚一枚じっくり撮ってください、ゆっくり見て下さい、ってことか?せっかくタッチスクリーンにしたのだからサクサク感が欲しい。レスポンスが悪いとリズムが出てこない。

6)手ぶれ補正なし。何故入れないのか?何かライカポリシーに引っ掛かるのか?特に暗いズームレンズでは必需機能だろう。ましてこれから望遠ズームも登場予定というのだから。

7)センサークリーニングなし。発表会で、会場からの質問に対し、「センサーがむき出しなのだから、ユーザでも掃除しやすいはず」。全く答えになってない。さらに「ただし、あまりこするとセンサー傷つけるので、自分でやらずサービスに出してください」この矛盾した回答には笑うほか無いが。センサーむき出しでレンズ交換が怖い。

8)そして、このユニークなデジタルカメラの操作を習熟するには分厚くて「親切な」アナログ記述のマニュアルが手放せない。しかし、字やピクトグラムが小さくて、老視が進む世代であるライカ愛好家には虫眼鏡も手放せない。ちなみにApple製品にはマニュアル無いよ。


 総合的感想:

 一言で言うと素晴らしい金属ボディーに納められたレスポンスが悪いスローなデジカメ。シャッター音は軽快で、金属ボディーに閉じ込められた籠り感もあって静かだ。もちろん、ボディーは適度な重量と手触りで、掌で転がして感じる快感は最高のものだ。剛性感もあり道具としての完成度も高い。しかし、その素晴らしい容器に入っている中味のデジタルカメラの完成度はどうなのか?ライカもデジカメ創り始めてもう何年になるのだろう?パナソニックと組んでデジカメの技術的なノウハウはかなり吸い取ったはず。独自にXシリーズを開発し、独り立ちもした。このTシリーズでミラーレスに参入し、デジタルカメラとしての機能はかなり大きな進化を遂げたのは確かだが、それでもまだミラーレス先行各社製品の背中は遠いような気がする。ライカTよりもはるかに安い他社ミラーレス機が、ライカTよりも高機能だなんて。ライカファンの歯ぎしりを知ってほしい。

 Tシリーズのボディーデザインや、これから出てくるケースやストラップなどのアクセサリー類はアウディデザインチームとのコラボだとか。ライカは、BMWやフォルクスワーゲンなどドイツの高級車メーカーとのデザインコラボを次々に打ち出してきている。ドイツ製品の上質で高級なイメージを前面に出して行く戦略だろう。さすがだ!

 しかし、アウディのボディーに、ポロのエンジン積まないで欲しい!アウディにはアウディのエンジンを搭載して欲しい!

 なにもスペックてんこ盛りの日本製のコンデジのように、使いもしないギミックをいっぱい盛り込んで欲しいと言ってるわけではない。シンプルでイイ。せめてデジタルカメラの現時点でのスタンダード、基本性能(高画質を活かし切る、サクサク感、キビキビ感、信頼感)は押さえて欲しい、と言ってるだけなのだが。

 「素晴らしいエンジニアリングワークの、ガッカリなデジカメ」と、あるブロガーが評していたのが心に刺さる。そこまでとは言わないが、あたらずと言えど遠からずだろう。こうしたミスマッチパラダイムからなかなか脱出出来ないライカのデジタルカメラ..... 有名デザイナーチームとのコラボや高級イメージ路線はいいが、早くブラッシュアップされたデジタルカメラの基本性能を実現させてほしい。これがライカが示すデジタルの世界標準だ、という。何時までも「持っていて見せびらかす道具」の域を脱せないでいると、そのうち飽きられる。ライカは一生モノの使い込む道具だったはずだ。



ライカ100年。Tの背面に"LEICA CAMERA WETZLAR GERMANY"と。創業の地に戻って、新たな100年に向けて再出発した同社。その誇りと,未来に向けての決意を込めたロゴタイプにCongratulations! 




 Vario Elmar中心の作例。レンズの外見は少しシャビーになった気がするが、さすがに描写性能は素晴らしい:


望遠84mm相当。画面の歪曲もないし解像度も高い。


広角27mm相当。隅々までクリアーで歪曲も、周辺光量落ちもなく気持ちよい画だ。ボディー側で補正をしているらしい。


Vario Elmar望遠側84mm相当で撮影。開放5.6だが背景が奇麗にボケて、しっかり立体感がでる。ピントが合った所の解像感がスゴイ。


T/MアダプタでApo Summicron M 75mmを使用。さすがアポズミクロンの解像感。焦点距離が100mm相当になり最短撮影距離70cmでも、寄って撮影すると背景のボケがかなりくる


同じ花をVario Elmar 84mm相当で撮る。最短撮影距離45cm。上の写真と背景のボケに違いが。しかし花の立体感はよく出てるし、合焦部分の解像度は文句ない。