工芸品的完成度の逸品 Retina IIIC |
私の最も好きなRetina I型 |
カメラの歴史において、技術的イノベーションとパラダイムシフトとはライカに始まったと言っても過言ではないだろう。1925年、エルンスト・ライツ社が35mmフィルム(シネフィルムを利用する)を使う小型で高性能なカメラ、ライカ(Leica)を発売した。今でいうバルナックライカ(その後のMライカに対してLライカとも呼ばれる)である。開発者オスカー・バルナック博士にちなんでこう呼ばれている。これは衝撃的なできごとだった。この、いわばベンチャー企業ライツ社の挑戦を受けて1932年には同じドイツの光学機器の老舗ツアイス・イコンから35mm版のコンタックス(Contax)が発売された。今でこそ35mmロールフィルム(ライカ判)が主流となっていて、デジタルになってもフルサイズ(すなわち35mm)が基準になっている。しかし当時はこれよりも大きいサイズの銀塩フィルム(中判、大判)を蛇腹のカメラに装填して撮影するのが普通であった。したがってカメラも大型で三脚などを用いて撮影する方式が普通であった。そこへ35mm幅フィルムを使った小型の高性能カメラ(いわばハンドヘルドカメラ、あるいはコンパクトカメラ)が登場した。これはフォトジャーナリズムや写真文化に大きなインパクトを与えた。しかし、その価格はとても庶民の手に入る価格ではなかった。日本では輸入された当時、なんと家が一軒買える価格だと言われていた。
そこで、ライカ判フィルムを使えるもう少し廉価版のカメラが、様々なメーカーから世に出始めた。その中でも、その性能と価格で大成功を収めたのがこのドイツコダック(German Kodak)社のレチナ(Retina)である。当時、ライカが300マルク、コンタックスが360マルクであったのに対し、レチナは75マルク。しかし、レンズはSchneider社、Rodensctoch社など現在まで続く超一流のレンズメーカ製、シャッターユニットもDecker社製のCompurをを取入れ、その性能と品質は超一流であったから売れないわけがなかった。伝統的な蛇腹式を取り入れて、折りたたむと極めてコンパクトになる。にも関わらずレンズ交換もできるシステムカメラへと戦後は進化する。伝統と革新のハイブリッドと言ってよい。レチナ(Retina)はドイツ語で網膜という意味。ドイツコダックが製造販売した。米国コダック社はフィルム販売の促進を目指して1931年、ドイツのナーゲル(Nagel)社を買収し子会社化した。このナーゲル(Nagel)社は1928年にカールツアイスの技術者であったAugust Nagel博士によって設立された。そして1934年にAugust Nagel博士はレチナを開発し、同社のシュツットガルト工場で製造、コダックブランドで販売した。やがてアメリカとドイツは戦争となり、戦時中、戦後の混乱期を経験するが、ドイツコダックは存続し、Retinaを作り続けた。戦後一時期は戦前の部品をかき集めて作るなど、品質保持に苦労するが、やがて素晴らしい製品群を次々に世に出し世界的に人気を博した。
(1)まずは、レチナの原型となったナーゲル社(Nagel)のカメラ二台をご覧いただきたい。August Nagel博士がレチナに先立って製品化した中判フィルムカメラ。ボディーが大きくなりがちな中判フィルムカメラとしては小型化、コンパクト化を狙った意欲的な製品だ。35ミリ判(ライカ判)の蛇腹式フォールディングカメラへ移行する過程での試行錯誤を垣間見ることができる。
Nagel Pupile レチナの原型の一つである Nagelブランドベスト判フィルムカメラ Pupileとはドイツ語で「瞳」という意味 |
レンズ繰り出しは蛇腹方式ではなくレバーによる回転式 すごい螺旋ネジが鏡胴に潜んでいる! |
KodakVollenda これもレチナの原型となるカメラ Kodakブランドとなっている。Nagel工場製造のベスト判カメラ レンズ繰り出しはカバーを下に開ける蛇腹方式 |
(2)1934年のオリジナルレチナ以降、様々な形式のレチナが発表された。非常に多様な機種が製品化されたが、基本は蛇腹式フォールディングカメラで非常にコンパクト、高性能であった。その中からその代表的な機種を私のコレクションからご紹介していきたい。
The First Retina (117) 1934年発売
August Nagel博士によって開発されオリジナルレチナ。
ブラックペイント仕様、ニッケル鍍金。
シャッターはCompur Rapid。
レンズはSchneider-KreuznachのXenon 50/3.5。
素通しファインダー。
巻き上げには巻き留め機構が設けられている。 |
Retina Ia (015) 1951年発売
巻き上げレバーが設けられた戦後バージョンのI型。Ia型と称した。
シャッターユニットがSynchro Comperにグレードアップされた。 ファインダーは素通し。 レンズはUS Ektar付き。
ストラップ用のアイレットが付いた。
戦後落ち着き始めた時期の製品で仕上げが美しくなった。
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工芸品といっても良い美しさが魅力だ 巻き上げレバーが底部に見える |
この姿の美しさも魅力だ 蛇腹は外に露出しない構造になっている |
Retina IIIS 1958年 デッケルマウントレンズ交換式レンジファインダーカメラ |
Retinareflex VI 1964年 デッケルマウントレンズ交換式レンズシャッター一眼レフカメラ |