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2020年3月12日木曜日

クラシックカメラ遍歴(5)イタリアの伊達男デュカッティ・ソーニョ 〜有名オートバイメーカーが作った超コンパクトカメラ〜





イタリア製超小型精密カメラ、デュカッティ(Ducati)。クラカメ専科43号イタリアカメラ特集に詳細が記されている。本機はレンジファインダー付きのソーニョ(Sogno)。ハーフサイズの15枚撮りで専用カセットつき。コンパクトで精密な作りのカメラ。なんと言ってもオール金属製なのでマイクロサイズカメラだが手にずっしりとくる。この質感とがなんとも言えず心地よい。距離計窓がビューファインダーの両側にある二眼式レンジファインダーだ。二重像の分離が良く、クリアーで見やすい。一個の光学ガラスファインダーブロックで出来ている。しかも視度補正レバーまでついているから驚きだ。しかし小さなファインダーで針穴から覗くような感じである。シャッターは横走り布製のフォーカルプレーンシャッター。ライカなどの高級機を意識したのだろうが、シャッターガバナーを搭載する余地はなかったと見え、固定スリットでスプリングのテンションだけでシャタースピードをコントロールしている。低速シャッターはない。フォーカルプレーン幕の前に、観音開きの金属製鎧戸があり、シャッターボタンを押すとパタパタと開閉する。シャッター速度は500/200/100/50/20/Bの6速。部品点数を少なくして工作精度をあげるシンプルな構造だ。操作は慣れが必要。というのもフィルム巻き上げも左、シャッターボタンも左という、他カメラとは異なるレイアウトとなっているからだ。レンズは交換式で標準レンズは沈胴式のVitor 35mm f.3.5がついている。この他に豊富な交換レンズをはじめ一大アクセサリー群を擁するデュカッティ-ワールドを形成している。さすがイタリア製だけに素敵な作りの皮製ケースがついたオシャレなマイクロカメラだ。 

イタリアにこんな精密光学機器が、と思ってしまうが、現在ではスーパーオートバイで有名なドゥカッティ社の製品であったというからびっくりだ。デュカッティ(ちなみにカメラはこう表記するが、オートバイではドゥカッティと表記されている)社は戦前にイタリアのボローニャに創業されたメーカーで、通信機器、無線機やラジオ、シェーバーなどの電気機器など幅広く製造する。いわば総合電機メーカーであった。オートバイ、カメラは戦前から作られていたとの説もあるが、確かではない。このカメラ、デュカッティは戦後(1950年?)の製造で1952年まで製造されていたが、したがって台数が少なく珍品カメラである。レンジファインダーのソーニョ(Sogno)と距離計なしファインダーのシンプレックス(Simplex)がある。ちなみに1954年にドイツのエルンスト・ライツ社がレンジファインダーカメラの完成形ともいえるライカM3を出して業界に衝撃が走った。それに先立つ2年前の1952年にはドゥカッティ社はカメラ部門を閉鎖し、1953年には通信機器部門とオートバイ部門を分社化している(双方とも現在も存続しているが資本関係はない)なお、オートバイメーカーとしてのドゥカッティー社は2012年にドイツのアウディーに買収された。今でもバイク好きにはたまらないイタリアブランドだが、カメラの方もナカナカの伊達男振り。イタリアもこんな精密工業製品が作れるんだ!と。

このカメラは20年ほど前にウイ-ンの老舗中古カメラショップから購入した。ネット通販など無い時代なので、メールで注文、国際銀行振り込み、航空便で送られてくるという、なかなかリスキーな買い物で勇気がいった。注文してから、ちっとも送ってこないのでメールで問い合わせると「調整が必要なのでもうすぐ送る」との返事。注文確定から2週間で配送。しかしちゃんと出荷時にチェックしてるんだ。ほっとくとなにも言ってこないが、問い合わせるとすぐ返事がくる。結局「調整したがシャッターが完璧ではない」としてプライスタグから大幅なディスカウントしてくれた。さすが老舗、信用第一。結構ちゃんとしてるんだ。本機はやはりシャッターの調子がよろしくなかった。高速では巻上げスプリングのテンションが強くなり、シャッターダイヤルのクリックがすぐ外れてしまう。指で押さえればちゃんと行くが。低速1/20ではスプリングテンションが弱いのか、シャッター幕が戻りきらない。スプリングのテンションだけでシャッター速度を制御しているのでメカ的には脆弱だ。購入から数ヶ月後に使用中にシャッター幕が切れてしまった(古くて劣化していた)のと、シャッター速度1/500が滑って設定出来なくなってしまったので、有楽町のDカメラで直してもらうことにした。日本に部品などあるのか心配だったが、Dカメラはデュカッティやロボットなどの欧州製珍品クラカメを手掛けているので修理出来るとのことであった。依頼から数日後に新しいシャター膜に換装され、調整されたデュカッティーが戻ってきて感動した。ウイーンの工房より腕がいい!デジカメ全盛の当世、カメラ屋と言うものが世の中から消えてゆく中、Dカメラは今でもクラシックカメラ専門店として盛業中。ただしデュカッティはもう手に入らないそうだ。もし市場に出てきてもいまなら当時の三倍の値をつけていると言う。実用的には撮影にいろいろ難しい「お作法」がいるカメラだが、その希少価値と圧倒的な精密機械的「お道具」としての存在感が魅力的なカメラだ。



手の中にすっぽり入るマイクロカメラだが、オール金属製の質感は抜群で、手にズッシリと来る
ファインダーは二眼式距離計連動レンジファインダー
小さいのに凝った作りで、二重像分離で見易い
シャッタボタンが左前なので少し戸惑う
軍艦部には右から、フィルム巻き戻し、シャッターダイアル+視度補正レバー(!)、フィルム巻き上げ
シャッター速度は500/200/100/50/20/B
ファインダーは右が距離計連動、左がフレーム枠

イタリア製らしく上質な革製のケースがつく
左上に見えるのはVitor専用のレンズフード。これは珍品!

ハーフサイズの15枚撮りフィルムカートリッジを使用する。
詰め替え用のフィルムローダーもある。

裏蓋を外してフィルムを装填する。
ハーフサイズの布幕フォーカルプレーンシャッターだ。

レンズ交換式
沈胴式標準レンズのVitor 35mm f.3.5
フォーカルプレーンシャッター幕の前に金属の観音開きの遮光鎧戸があり、シャッターボタンを押すとパタパタと開閉する。