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2018年6月3日日曜日

伊豆半島ジオパーク探訪(東伊豆編)〜なぜ高原リゾートが海岸べりにあるのか?〜

 伊豆半島は1100〜1400m級の天城連山と、温泉と、美しい海岸線に恵まれた半島である。今年、2018年4月17日ユネスコ世界ジオパークに認定された。静岡県の三島、沼津側から太平洋を望むと、海の中に峨々たる山容を誇る伊豆の山々が見える。伊豆半島は山がちな半島なのだ。かつては半島先端に向けて南下し下田へ行く主要道路は三島(律令時代の伊豆国国府)から半島の中央部の山あい(修善寺、天城峠越え)を抜ける下田街道一本しかなかった。明治になって天城トンネルが出来て、三島と下田が陸路で容易に(以前に比べれば、だが)通行できるようになった。川端康成の「伊豆の踊子」の旅路はまさにこのルートである。それまでは下田は山塊に阻まれ、周囲を海に囲まれた隔絶地であった。律令時代以降、長く伊豆諸島とともに遠流の地であったわけがわかる。今でこそ相模湾沿いの東伊豆に国道135号線が開通し、昭和35年には難工事の末、伊豆急行線が伊東から下田まで開通。東伊豆の海岸線を走る鉄道絶景路線となっているのだが。一方で江戸時代には、伊豆は幕府天領であった。韮山に代官所があった。下田には太平洋沿岸を航行し江戸湾に出入りする船の通行を管理する関所、大浦番所が設けられていた。伊豆半島石廊崎沖は黒潮の大蛇行が発生する海上交通上の難所であり、避難港、潮待ち港としても下田は重要な港湾都市であった。後のペリー来航、開国に伴い、下田が初めての開港の地として選定された所以である。

 さて、この海と山が絶妙にブレンドされた不思議な地形はどのようにして形成されたのか? 2000万年前、日本列島が大陸から切り離された時にはまだ伊豆半島は日本列島の一部ではなかった。その後、60万年前頃、太平洋を南からフィリピン海プレートに乗ってやってきた海底火山列島が徐々に隆起を始め陸地化し、やがて日本列島に衝突して伊豆半島が出来た。さらに20万年前頃になると、天城連山などの陸上大型火山が出現して噴火を繰り返し、造山活動が活発になる。このころ山国、伊豆の姿の原型が形成された。その後、大型の火山活動が収まり、地表が侵食を受けなだらかな山容となってゆく。やがて伊豆半島東岸に単成火山活動が起こり大室山、小室山、一碧湖など、スコリア丘、溶岩ドーム、爆裂口など60を超える単成火山群が出現する。その噴火、溶岩流出により形成されたのが今の伊豆高原である。すなわち伊豆高原は天城連山の東側にできたなだらかな溶岩台地なのである。その溶岩流が海中に没するところが城ヶ崎海岸である。溶岩流が海中に流れ込むと急速に冷やされることで、柱状節理の岩肌を持つ独特の景観を形成することになる。伊豆高原という、まるで信州の高原のような山岳リゾートっぽいイメージの景勝地が、相模湾に面した海岸にある理由はこうした事情による。また、こうした成り立ちから、伊豆は玄武岩や安山岩などの石材の産地としても注目され、江戸城の石垣用石材の切り出し地となった。東海岸にはあちこちに石切場跡があり、海中には江戸への運搬途中に沈没した切り出し石が多数検出されている。また、下田の街の家屋の壁面を飾る海鼠壁とともに、独特の佇まいを生み出している伊豆石の産地ともなっている。だいぶ少なくなったとは言え、ペリーロード沿いの伊豆石作りの古民家や蔵が立ち並んでいるのを見て歩くのは楽しい。伊豆石には安山岩系の硬質岩と凝灰岩系の軟質岩があるそうで、こうした古民家には加工しやすい軟質岩が利用されているという。

 そして伊豆といえば温泉だ。特に伊豆半島東海岸には熱海に始まり、伊東、赤沢、大川、北川(ほっかわ)、熱川、片瀬/白田、稲取、河津、下田と、伊豆急沿線ほぼ各駅にバラエティーに富んだ温泉がある。火山性の温泉であるが、泉質は単純泉、酸性泉など、無色、無臭のさらりとしたお湯だ。特に熱川温泉は湯量が豊富で、100度を超える熱水を櫓で組み上げ、そこから噴気が吹き上がる様が温泉街独特の風景となっている。熱川まで来ると、先ほどの伊豆高原の溶岩台地から外れ、伊豆はまた別の顔を見せる。断崖絶壁連なる海岸線ではなく、温泉街のウォーターフロントには白砂の海岸線が続き海水浴場が広がる。そのすぐ背後には天城山系の山々がそびえる。山麓の谷筋には。かつて都から配流され、落ち延びてきたやんごとなき一族の末裔の隠れ里が点在する。鄙ではあるがどこか雅な香りを今に残す穏やかな風景。こうした伊豆半島の成り立ちを振り返ってみると、多様な地理的特色を持つ「ジオパーク伊豆半島」という新たな視点からの伊豆の楽しみ方があることに気づかされる。


北川温泉から望む伊豆高原
大室山から流出した溶岩流が形成した地形であることがよくわかる。

城ヶ崎海岸駅から海岸へ向かう桜並木道
この辺りは別荘地である。

城ヶ崎海岸
溶岩流が相模湾に落ちるところだ
大室山の溶岩流の先端。その先に伊豆大島が

柱状節理の岩肌


城ヶ崎吊り橋と門脇灯台



伊豆海洋公園
伊豆海洋公園のアジサイ園
伊豆大島

橋立吊り橋あたりの景観

柱状節理

柱状節理が見事だ

磯釣りのメッカだ
大室山山頂火口壁から伊東市内、相模湾を望む

大室山山頂から眼下に伊豆高原、海中に大島を展望する。
伊豆高原が大室山から流出した溶岩台地で出来ていることがよくわかる。
緑の中に点在するのは別荘

大室山山頂から一碧湖を望む
一碧湖も爆裂火口の跡である



(撮影機材:Leica SL + Vario Elmarit 24-90,  Leica CL + APO Vario Elmar 55-135)