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2024年12月24日火曜日

Who is Terence Conran?  Making Modern Britain 〜テレンス・コンラン展探訪〜

 



東京ステーションギャラリーで「テレンス・コンラン展」が開催されている。「Who is     Terance Conran? Making Modern Britain」と題したコンラン卿の足跡を辿る展覧会である。10月12日から開催されているが、年末のギリギリで駆け込んだ。年明けの1月5日に終了だ。

私にとってはコンランといえば1980年初頭の留学時代にロンドンの街角で見た「Habitat」というインテリアショップ。トラッドな街ロンドンにあって随分とモダンで洒落た店舗だと感動した思い出がある。フランス人の友人がこの店をすごく気に入っていて教えてくれたので行ってみた。ちなみに私が「ハビタット」と発音したら、彼に「アビタ」と直された。そしてその10余年後の1990年代にロンドン勤務時代の日々に、今度はコンランがプロデュースした話題のモダン・ブリティッシュのレストランを楽しんだ思い出がある。時代は変わった!「イギリスのメシは不味い」なんて誰が言ったんだ?!フィッシュ&チップス、キドニーパイしかない?確かに80年初頭は、私自身が貧乏学生であったこともあり、イギリスで美味いものを食った覚えがない。そこで覚えた味はアジアンエスニック、チャイニーズとインディアンだ。さすがの大英帝国レガシー。田舎をドライブして、ふと立ち寄った村のパブのホームメイドなイングリッシュ・ブランチも美味かった。しかし10年経ちイギリスもEUに加盟して安価な生鮮食料品がドット域内から入ってくると食事の質が確かに変わった。私自身の懐も多少は豊かになったこともある。そして美食の探求に洋の東西はない。ましてフレンチやイタリアンが全てではない。コンランのレストランはフレンチ、イタリアン、中華、和食、インド、世界各地のフュージョン料理であった。それをイギリス風にアレンジしたまさにモダン・ブリティッシュ。彼はブリティッシュキュイジーヌに新風を吹き込んだし、それが世界の人々に受け入れられた。彼のレストランはロンドン名所になった。フランス人のシェフも料理修行に来ていた。しかも、レストランのロケーションにもこだわった。テムズ川沿いのバトラーズ・ワーフ倉庫跡、タイヤ会社のミシュラン旧本社ビル、セントジェームスの地下のレジェンダリーなダンスホールなど、ロンドンの歴史と伝統ある建物をうまく生かして再生した。そうしたプラットフォームがまた新しい文化を生み出した。それが実におしゃれだ。東京のように古い伝統建築物をどんどん壊して、何の変哲もない高層ビルに建て替える再開発とは大違いだ。このセンスの違いはどうして生まれるのだろう。日本も今や外国人ツーリストが押し寄せる国になったが、本当の文化力を発揮し、それが普遍的のものとして世界に認められ受容されるにはまだまだ時間がかかりそうだ。今はただ経済力が衰退したので割安感で押しかけているようにしか見えない。日本は軍事大国、経済大国の次は文化大国しかない。そういう文化人、企業家がもっと生まれないものか。


「テレンス・コンラン展」の様子。基本的に撮影禁止であったが、一部の展示が撮影可であったので雰囲気だけでも味わっていただきたい。


東京ステーションギャラリーエントランス
丸の内南口
コンランショップ再現



バートン・コートのコンランの自宅での生活紹介





ロンドンのコンランプロデュースのレストラン達

1)Le Pont de la Tour, Chop House in Butlers Wharf

タワーブリッジ麓のバトラーズ・ワーフ、昔のテムズ川沿いの倉庫街であったところをリノベーションし、レストランとデザイン・ミュージアムを開設した。いわばウォーターフロント再開発の先駆けである。古い建物を取り壊すのではなく、再利用する。東京の天王洲アイルや横浜の赤レンガ倉庫はその影響を受けたのか、雰囲気が似ている。とにかくテムズ沿いに聳えるタワーブリッジ見ながらのディナーはロンドン生活のハイライト。家族でもよく出かけたが、日本からの来訪客を案内するにも最高であったことは言うまでもない。



'Le Pont de la Tour'
which means 'Tower Bridge'

Chop House



2)Quaglino's St. James's

セントジェームスにある昔のダンスホールを改装したレストラン。店内に入ると、まず美しい下り階段が目に飛び込んでくる。そこから見渡す階下のフロアーが美しい。階段をゆっくりと降りながら自分のテーブルへ案内される。まるで自分がスポットライトを浴びながらステージに登場する主人公になったよう感覚に浸れる心憎い演出。ちょっと知られた有名ダンスホールだったというその記憶とレガシーをうまく受け継ぐセンスが素敵だ。





Quaglino's St. James's


3)Bebendum the Michelin House on Fulham Road in Chelsea

ミシュランタイヤのイギリス本社のアールデコ建築をコンランが気に入りついに買い取ってレストランに。コンランショップも入っている。とにかく建物が素晴らしい。良い舞台が名優たちの演技を盛り上げてくれる。食事を楽しむと言うことはこういうことだとイギリス人に教わった。ロンドンが食文化の中心になるなんて10年前には考えられなかったことだ。保守的と受け止められがちなイギリス文化の多様性と革新性の象徴のようなレストランだ。



Bibendum
the Michelin House on Fulham Road in Chelsea







以下は、日本のレストアー、リノベーションの象徴、東京駅赤煉瓦駅舎。これはなかなかの出来栄えだ。世界一混み合う駅のこの余裕。日本もやればこういう事ができるのだ。壊すばかりが能じゃない。今回の「コンラン展」にふさわしいヴェニューだ。新しいモダン・ジャパニーズが生まれる予感も。


東京駅丸の内南口









ギャラリーを出るとそこは師走の東京駅



(撮影機材:Nikon Z8 + Nikkor-Z 24-120/4)
レストラン写真はそれぞれのレストラン・ウェッブサイトからの引用。