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2013年1月12日土曜日

秋篠寺に伎芸天に会いに行く ー 今年の大和路散策はここから始まる ー

 秋篠寺。その名の響きの涼やかさに心浮き立つ寺だ。そう、年の始めの大和路散策の第一歩ににふさわしい寺だ。

 近鉄大和西大寺駅を出て、西大寺の築地塀に沿って歩き、そこから、細い「歴史の道」をたどって近鉄の踏切を渡り、真北へ向うとこんもりした森の中に秋篠寺がある。入江泰吉氏の写真に名残をとどめる昭和20年代の風情を,現在のこの辺りに求めるのは無理だが、それでも新興住宅街を抜けると、刈取りの終わった冬枯れの田圃を通る細い道。枝ばかりが冬空にそびえる柿の木。秋篠の里という名前の響きに相応しい佇まいが少しは残っている。

 秋篠寺は平城京の西北、その秋篠の里にひっそりと佇む。光仁天皇勅願より奈良時代の宝亀7年、西暦776年に創建。造営は桓武天皇に引き継がれ,794年の平安遷都とほぼ期を一にして完成を見たという。地元の豪族秋篠氏の寺を勅願寺にしたとも言われる。もとは東西に塔を擁し、南の西大寺と寺勢を競う大寺院であったそうだが、今はこじんまりと静かな境内。周りを競輪場や少年院や新興住宅街に囲まれた雑木林の中に、かろうじてその歴史の痕跡をとどめている。

 秋篠寺を有名にしているのは、もちろんその寺の静かで美しい佇まいであるが、そのほかに金堂におわします伎芸天を忘れてはならない。もともとこの寺は南都仏教法相宗。そのご本尊は薬師如来。平安時代の作と言われる日光、月光菩薩を従えた天平の寺だ。平安時代には真言宗となったが、現在はどの宗派にも属さない単立の寺となっている。現在の薬師如来坐像は鎌倉時代の作。いまや御本尊以上に人気のこの伎芸天も、頭部は天平時代そのままの脱活乾漆造であるが、胴体部分は、後の鎌倉時代の木彫による補作だという。しかし,実にうまく補修されたもので、この女性的な姿体は実に調和が取れていて美しい。一説に鎌倉時代の天才仏師快慶が廃墟の中から天の頭部を掘り出して胴部を継ぎ足したものだとも言う。明確な証拠は見つかって無いが、そう考えるのも一興だろう。明治以降、「東洋のミューズ」と称されるようになったが、別に西洋のミューズに例える必要は全くない。「秋篠寺の伎芸天」でよい。

 本堂はこじんまりした建物である。創建当時の金堂は失われ、かつての講堂を鎌倉時代に修復して本堂とした。国宝である。ところでずいぶん鎌倉時代に再建されたり、補修された寺や仏像が奈良には多い。これは平安末期の平家と藤原摂関家との権力闘争、平家と源氏との争乱、保元、平治の乱で南都の寺は数多く焼かれたり破壊されたからだ。鎌倉時代に入って、源頼朝の支援を受けた重源により再建された東大寺がその復興伽藍の代表格だ。運慶、快慶等の仏師が活躍した時代だ。その後の時代になると16世紀の戦国時代の戦乱での破壊がある。そして、明治維新後の国家神道による廃仏毀釈で破壊された(興福寺や内山永久寺など)。秋篠寺も明治期の廃仏毀釈の嵐の中でに荒廃が進み現在の姿となった。

 こうした時代の幾多の荒波を思い起こすと、それらをくぐり抜け、時空を超えて現代にその法灯を継ぐ秋篠寺のような文化遺産を大事にしなくてはいけないと思う。そして伎芸天は信仰の対象としての仏像、天であるだけではなく、興福寺の阿修羅像等と同様に、日本人の美意識を体現する美術作品として、あるいは、まさに伎芸=Art/Entertainmentあるいは、「技」technologyと「芸」artを具現化するシンボルとして愛され続ける。

 ところで、この秋篠寺の南門を出た所に、八所御霊神社(はっしょごりょうじんじゃ)が鎮座している。ここには崇道天皇(早良親王)始め、井上皇后、奈良時代末期の皇族皇子、橘逸勢、藤原広嗣、吉備真備などの高官が祀られている。秋篠寺の鎮守として780年に八所神社創建され、後の平安遷都後の880年に八所御霊神社となったという。 秋篠寺の創建と何か関わりがあるのだろうか? 一説にいわく。これらの皇族高官は、皇位継承、平安遷都に伴う政変で失脚、権力の座から遠ざけられた人々である。彼等の怨念を鎮めるために祀ったのだ、と。太宰府へ流された菅原道真の怨霊を鎮めるために天満宮(北野天満宮)を創建したのとおなじことだ。そもそも770年の称徳天皇崩御ののち、藤原百川による光仁天皇即位に当たって、呪詛の疑いをかけられた井上皇后の廃后、二人の皇子の変死等の事件が起こり、その後に天変地異が続いた。そうした中での勅願寺秋篠寺の創建である。現在の静かで落ち着いた佇まいの秋篠寺にも、奈良時代から平安時代へ移行する過程での権力闘争と、その中で敗れた側の怨念が見え隠れするようだ。

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(伎芸天。頭部は天平時代の脱活乾漆造)

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(伎芸天。胴部は鎌倉時代の木造による補作。しかし、なんという美しいバランス)

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(秋篠寺本堂。御本尊の薬師如来ほか諸仏がおわします。伎芸天もここに)

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(南門への道。門外の右手に八所御霊神社が)

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(八所御霊神社。秋篠寺の鎮守社)

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(撮影機材:Nikon D800E, AF Zoom Nikkor 28-300mm)