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2014年2月15日土曜日

Leica X Varioの使用感  〜ライカがデジカメ造るとこうなる?〜

ライカ社が、一昨年の10月に新製品発表ティーザー広告で、ミ二Mとして紹介し、いよいよフルサイズセンサー、Mレンズ交換式ミラーレスがデビューか?とファンが大いに期待した。しかし翌年の6月に市場に登場したのはAPS-CサイズCMOSセンサー(1620万画素)で、固定式28ー70mmズームレンズ付きコンデジだった。すなわちXシリーズのズームレンズバージョン。こりゃMじゃないよ、という事で多くのファンがガッカリ。そういう騒ぎを提供したのがこのカメラだ。ズームレンズも28−70mmという極めてコンサバなレンジで、しかもF値が3.5-6.4という暗いもの。これで市場価格は34万円というから、誰が買うんだ?と。

私自身、発売以来、その話題には興味があったが、手を出すつもりは全くなかったこのX Vario。遅まきながらこのたび、使用する機会を得たので、私なりの使用感を述べてみたい。一言で言えば、やはりこのX Varioはいい意味でも悪い意味でも、極めて「ライカ的」なカメラだ、ということ。高らかにMade in Germanyのデジタルカメラであることを唱っている。ライカが独自に(パナソニックのOEMでなく)デジタルカメラを開発するとコウなる、と言いたいようだ。ううん〜、そういわれると安易に日本製のコンパクトデジタルカメラ、あるはミラーレスと比較してはいけないのかな、と感じ始めた。そこには写真機に対する思想と文化の違いみたいなものがありそうだし。

先ず,私なりのPros and Consを書き出してみた。

Pros:
1)ライカらしいソリッドな金属ボディー。無理にコンパクトさを狙わずホールド感がいい。
2)妥協の無い優れた描写性能のズームレンズ(Mにはズームレンズのラインアップがない)。歪曲も少なく、隅々までシャープ。ライカ独特の立体感まで表現している(M240+単体レンズのように、とまではいかないが)。
3)望遠70mm端で最短30cmまで寄れる(その他は40cm。ただ、これを欠点だという人もいるが)。開放f.6.4にしてはボケ味も悪くないし、結像部分はきわめてシャープ。
4)AFからマニュアルフォーカスへの切り替えがリニアに出来る操作性(マニュアルフォーカスアシスト機能があり、結構効果的)。

Cons:
1)ズーム域が今時コンサバすぎる。せめて24ー100mmくらい欲しい(超解像ズームは望まないまでも)
2)レンズが暗い。特に70mmのf.6.4は現代レンズとしては暗すぎ。f4通しにしてくれた方が良いが、レンズサイズ上これが限界か。
3)AF合焦速度は、明るいところではまずまずだが、暗いところでの合焦はなかなかむつかしい(だからマニュアルを使え..か)。
4)画像再生/読込速度が遅い。再生画面の切り替えに非常に時間がかかる(Mもそうだが、そもそも遅いプロセッサー、バッファーメモリーを使用しているらしい)。
5)背面の十字キーの位置と操作性は何とかならないか(真ん中にファンクションキーではなく、セットキーを置いて欲しい。M240のそれと変えた意味は?)。また撮影時に、親指付け根でキーを不用意に触ってしまい設定が変わる。
6)EVF付けたとき、露出補正がファインダー覗いたままできない(いちいち眼を離して液晶画面で確認しなくてはならない)。これは何のマネだ?
7)他社製品との相対で価格が高すぎる(多分これが最大のCon)

昨今の日本の各社が相次いで市場に投入しているミラーレス機と比較すると、これ以外にも言いたい事がつぎつぎ出てくるが(手振れ補正が無い等)、あえてそれは封じた。それにしてもProsは、少なすぎるように思えるかもしれないが、要は、数字上のスペックを狙わず、無理の無い設計で、ズームレンズの描写性能に挑戦した点と、ライカらしい質感を大事にした点、この二つに尽きる。特にズームレンズ性能の秀逸さは他社ミラーレスの及ぶところではない。

ライカ社はMシリーズはあくまでも、レンジファインダーが主でライブビューは従だ、と頑に位置づけている。したがって、レンジファインダーであるが故のレンズ設計の制約(ズームレンズはダメ、0.7m以下の最短撮影距離もダメ、望遠、マクロレンズも制約)をそのまま受け入れて、今後も変えるつもりはないようだ。そのかわり、M240にライブビュー機能を搭載し(あくまでも補助的に)、従来の一眼レフレンズ群であるRレンズ用にアダプターを用意して、M240ボディーでズーム、マクロ、望遠使用を可能とする手段に出た。

これに加えて、コンパクトなXシリーズ用に新たにズームレンズVario Elmarを開発した、ということなのだろう。これはあくまでXシリーズであって、Mではないのだが、ただ、このVario-Elmarは、なかなかの名レンズの素地を持っていると思う。なにしろズームレンズ特有の欠点が極力取り除かれている。画面の隅々までよく写るし、ヌケもよい。単焦点レンズにこだわるライカ社のレンズ設計基準に近い画質のズームレンズだけをライカ名のラインアップに加える、というポリシーみたいなものを感じる。歪曲収差や周辺光量不足、解像度などのレンズの基本的描写性能を守り、コンパクトにしようとすると、このような保守的なスペックになったのだという。このズームレンズを専用にチューンしたXボディーに固定した。普及版のコンデジではないぞ、と。

結論。X Varioは、単焦点レンズMシリーズに加えて、どうしてもライカのズームが欲しい人用のカメラだと思う。日本製のコンデジやミラーレスの対抗馬として企画されたのではないだろう。逆に言えば、Mシリーズにズームレンズラインアップが期待出来ないなら、APS-CセンサーのXボディー付きのズームレンズ、Vario Elmarが手に入るようになったと思えばよい。価格もそう思えば単焦点Mレンズが一本30万円〜が当たり前(!)の中,「お買い得」と言えるのかもしれない。もちろん、これに同意する人は極めて少数派だろう。これを認めない人には,とんでもないお高くとまったデジタルカメラ、という評価になる。繰り返すが、あくまでもこれはXである。Mではないのだから。まあ、いろんなカメラがあって選択肢が増えるのはいい。別に人気ランキング一位のカメラが「いいカメラ」という訳ではないのだし。

そもそも、ライカ社と日本のカメラメーカとの間には、カメラという商品に対する基本思想の違いがあるように感じる。あくまで画質優先。基本性能にこだわる(日本製がこれらで必ずしも劣るとは思わないが)。そして(これが重要なのだが)そのためにはコストと手間を惜しまない(コストパフォーマンスの良さなど求めない)。基本性能向上に不要な機能は盛り込まない。きわめてコンサバな姿勢だ。だから日本の市場では、一部の趣味人を除いて、なかなか受け入れられないのかも。ネット通販のMカメラのサイトを発売以来ウオッチしていたが、新製品発売直後のユーザの反応が面白い。「買うに値しないカメラ」という「炎上寸前の」酷評から、「ライカらしくて欲しくなる」という評価まで,これほど毀誉褒貶の激しいカメラも珍しい。けなしている人は他社のミラーレスを念頭に,価格表を眺めているのだろう。褒めている人も「ライカらしい」という経済合理性とは異なる評価基準によるものであるところが面白い。この頃はようやくそのレンズ性能を評価するコメントも増えて来たが、一方、早くも中古市場には「美品」クラスの在庫が山積みだ。

それでもライカ社は、値引きもせず、今後も安易に市場に迎合しないであろう。その頑な姿勢を評価すべきかもしれない。価格競争とスペック競争のジレンマに陥り、業界自体が自滅して行く、という悪循環から脱する商品戦略とはこういう事なのかもしれない。ブランド価値という差異化戦略だ。しかし、その一方、ニコンのように、新しい技術や機能を、まずは普及機に搭載して、ユーザや市場の反応を見極め、技術的な信頼度が熟してから、ハイエンド機に搭載してゆく、というようなマイグレーション戦略も、きわめて合理的な差異化戦略だとも思うのだが。それにしても,ライカ社はもう少しデジタル化のための技術をブラッシュアップしてもらいたいものだ。バグの多いカメラはやはりブランドイメージを傷つける。デジタルカメラとなった以上、それが基本性能のブラッシュアップなのだから。



(LeicaM Type240との比較。確かにデザイン的な統一感を出すことには成功している。一回りコンパクトなサイズだが、ミ二Mというには...)



(軍艦部にはシャッターダイアル、絞りダイアル。露出補正ダイアルはない。アクセサリーシューには別売りのEVFを装着出来る。やはり、このスペックにしてもレンズがデカイ。しかしズーミングによるレンズ繰り出し量は少ない。)



(大雪に見舞われた東京。ようやく「平常運転状態」へ。歪曲も周辺光量不足も少なく安心出来るズームレンズだ)



(雪の中から梅の花が咲き始めた。望遠側70mmで最短30cmまで寄ることができる。結構なクローズアップ効果が得られ、開放f値がf.6.7にもかかわらず、背景のボケも良い感じだ)



(羽田国際線ターミナル。広角28mmエンドで撮影。下方の水平方向の直線に全く樽型歪曲も見られない秀逸なズームレンズ)