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2015年6月4日木曜日

Leica Vario Elmar R80-200mm 〜レジェンドになり損ねた望遠ズームレンズ〜

 世の中には運のいいヤツと悪いヤツがある。もっとも実力もないのに運をつかむヤツはいないが、実力があるのに運が巡ってこないヤツはいっぱいいる。カメラのレンズにもそういう不運なレンズがある。今回はそういうお話。

 ライカ社がRマウント一眼レフの製造を止めてから、Rレンズ資産が宝の持ち腐れになっていた人が多いと思う。Mに負けない優秀レンズがラインアップされているにもかかわらず、世の中に認められることなく中古市場でも気の毒なくらい安い値段で並んでいる。こうした事態を重く見て(?)、ライカ社は2013年のM Type240発売と同時にRレンズ用Mマウントアダプターを発売し、Rユーザの不満を解消しようとした。ライブビュー搭載をきっかけとしたソリューションとしては妥当なところだろう。しかし、少しタイミングが遅すぎた嫌いがある。デジタル全盛となった今、そもそもただでさえRマウント一眼レフ使っているユーザは希少で、マザーボディーの供給がストップした時点で、大抵は泣く泣く安い値段で売り払ってしまった人が多いのではと思う。

 私もその一人だが、以前にも書いたように、Mがせっかくライブビュー機能を搭載したにもかかわらず、高性能なライカ望遠ズームがないことに少し苛立っていた。もちろんライカ社はMマウントの望遠ズームなぞ出す気はサラサラないだろうし、最近のTマウント(ASPーCサイズセンサー)で望遠ズームが投入されたが、「なんかちょっと違う」のに価格が何故こんなに高いのか。どうせなら、やはりフルサイズセンサーMボディーで、しかもライカ純正が欲しいということになる。

 Rレンズ用Mマウントアダプターの登場で、にわかに脚光を浴びたのがVario Elmar R 80-200mm f.4ズームだ。レンズ設計、機構設計はドイツ、製造は日本(あのレジェンダリー富岡光学。後に京セラオプティク)というハーフだ。1996年の発売だが、その以前から、ライカ社は一眼レフはなんとなく自社製造路線に懐疑的で、ライバルの日本メーカに製造委託していた。R3のようにミノルタXEボディーにライカロゴつけたカメラや(今のパナソニックコンデジにライカ外装をかぶせたのはこのころからの伝統か)、一眼レフ用ズームレンズは初期にはシグマやミノルタなどが製造を請け負っていた(あるいはOEM供給していた)。

 そういうこともあってMade in Germany一神教ライカファン(ライカ正教徒)からは疎んじられ、中古価格も低迷していた。確かに、初期のズームレンズのラインアップは、なんとなく設計コンセプト、ポジショニングも曖昧で、しかも性能的にもソコソコ(特にニコンキャノンなど優秀なズームレンズが次々市場投入されていた時代だけに)。いくらライカだと言われても、あえてライカ印の付いた日本製ズームを買う意味がわからないようなものが多かった気がする。

 しかし、この望遠ズームは別格だ。8群12枚のレンズ構成。作りも妥協なく金属鏡胴で固めたライカテイスト満点。ズームリング回してもレンズ長が変わらず、トルクも適度だ。最短撮影距離は1.1m。フード組み込みもライカらしい。赤いロゴマークが誇らしげに鏡胴の左右二ヶ所に掲げられている。その性能はすばらしい。単焦点望遠レンズに匹敵する解像度と、高価な哨材のレンズを多用したアポクロマート補正も秀逸(何故APOと称さないのか?)。ボケも嫌いではない。最新の日本製ズームレンズにも劣らない性能を備えている。初期ミノルタ製に次ぐ4代目の製品であり、性能も、その「お道具性」も随分グレードアップされている。しかし、1996年製と比較的歴史が新しいのと、やがてライカ社がR一眼レフから撤退したので、このレンズで多くの作品を世に出したフォトグラフォーが少ない。したがってレジェンドとなり得なかった悲運なレンズだ。

 M Type240にRアダプターを介して装着すると、長くて重量がある。正直バランスがいいとは言えない。ハンドグリップとEVFが必需品だ。しかも手振れ補正がないので、手持ち撮影には限界があることを知っておくべき。そんなにしてまで「ライカで望遠ズーム」にこだわらなくても、世の中には優秀な日本製のNコンやCヤノンがあるではないか、と普通なら考える。しかし、その写りが素晴らしいことと、そのレンズの姿が美しく、ライカで撮影する、というお作法、スタイルへの期待感を裏切らない。ようやくライカ製の望遠ズームレンズで撮影できる喜びはひとしおなのだ。ようするにライカ病の新たな症状の出現だ。

 こうした再評価、人気復活のせいか、中古市場での価格も、最近急速に上昇してきている。しかし、何しろ流通している玉数が少ない。したがってなかなか店頭でお目にかからない。新品に近いまま個人宅に死蔵されているか、中古ショップの美品在庫となっているのだろう。個人的にも一度ネットで見たのが2年ほど前。それ以降お目にかかれなかったが、最近突然、Mップカメラのネットサイトに二本も現れた。使用痕が見られない美品だ。

 軽快なスナップシューターとしてのライカ撮影の楽しみとは別に、じっくりと風景撮影に取り組むという、新たなライカ撮影ライフが開けそうだ。ピントピーキング機能のついたライブビューならではの撮影を楽しみたい。しかし、くれぐれも手ブレにはご注意を!そうすれば新たなレジェンドが生まれるかもしれない。運に恵まれなかった実力者に、再デビューの機会が巡ってきたのは嬉しい。



2013PhotokinaでのM Type 240+R Adapterの発表
Stephen Danielが持つと小さく見えるが...







実際にはかなりモノモノしいいでたちとなる。
手振れ補正なぞないのでハンドグリップとEVFは必需品

三脚座つきRアダプターを装着した姿

 このレンズによる作例:

ライカらしい立体感だ


最短撮影距離1.1mでの撮影。すばらしい解像度
左上のハチに注目

ボケもなだらか

明暗の階調も豊かだ