昨年の12月には発売,とされていた、全世界500台限定のライカM9チタン。年末の29日に、いつもライカシステムではお世話になっている、日本橋のF越写真機店のSさんから「はいりますよ」「見ますか?」と連絡あり。
おっ、約束通り12月中に入荷ですか、かろうじて... 昨年9月のフォトキナの華々しいデビューいらい、音沙汰がなかったので、また出荷が延期になりました、なんてアナウンスがあるのかと思っていたが。聞けば、年内に入荷出来たのは日本では10台未満だとか。なかなかもったいつけるなあライカは。
さて、現物を早速拝見。でっかい箱に二重に梱包されている。オープニングセレモニーだ。まずはあのホルスターが黒い袋に入ってお目見え。その下から出て来た玉手箱のような黒い立派なハコ。これを左右に引っ張ってスライドさせて開ける。立派な装丁の「取り説」と「うんちく本」等が同梱。さらにその下に赤絨毯ならぬ赤いスエードの内装に囲まれてボディー、35mmレンズ、フードが鎮座ましましている。なかなか脱がすのに苦労するがワクワクする正月の姫始めのようだ(あくまでも喩えです)
フィンガーループとショルダーストラップもボディーレザーと同系統の革製のものが付いて来た。例のホルスタータイプのケースもなかなかの出来映えだ。が,ちと恥ずかしくてこれ肩にかけて撮影には出ないだろうな。何だろう?と衆目を集める事間違いない。目立ちたい人にはおススメですが。
さて肝心のボディー。ひんやりとしたチタンの感触がたまらない。かつてのM6チタンのような真鍮板にチタンコーティングしたもの(Titan finish)とは異なり、無垢のチタン削り出し。M7チタンも無垢だそうだが、M9の方がふんだんにチタン使ってそうだ。現にボディーサイズはわずかに従来のM9よりは大きい。しかし,重量は軽い。また指紋がつかないような特殊コーティング処理がなされている。
ライカの赤いエンブレムが目を引く。レザーも未来的でいい。中身はこれまでのM9と同じなのだからあんまり感動する部分はないのがもったいないくらい外装は素晴らしい。久しぶりに興奮するカメラボディーに出会えた感じだ。ボディーの面取りやレザー部分が手を加えられて近未来的なルックスになった。アクセサリーシューはチタンでカバーされ、シャッターボタンはレリーズ用のネジを塞いで指触りがよい。正面から見たら、採光窓がなくなり代わってその位置にLeicaのアクリルネームプレートが鎮座している。手作業で墨入れしたものとか。全体にバランスのとれた精悍なルックスとなった。
デザインを言うなら、以前から気になっているアクセサリーシューのオフセット位置を、この際レンズ中心線上に持って来れなかったのだろうか?そして正面のライカエンブレム左上のほくろのような丸い採光窓(何用だったっけ?デジタルになって唐突に付けられた)、これもデザインバランスを壊してると思うんだけど。
ストラップ類は一新され、右肩にあるアナに、フィンガーループ(大小3種)、ショルダーストラップのコネクターを差し込むことが出来る。この為には裏蓋を開けて、専用のフックを引っ張ると、アナのカバーが外れる仕掛けになっている。この辺が「ライカのお作法」を踏襲している。しかし、ちょっと頼りなげなアナのロック。本当にこの高価なカメラが外れて落ちたりしないのだろうね。
ただフィンガーグリップはホールドが良い。新しいカメラの保持スタイルを提案している。
同じくチタン素材の鏡胴の35mmズミルクスと、同じ素材で出来た花形フード。これを装着した姿は最高。フードはねじ込み式。レンズ先端のリングを外してからフードをねじ込む。フードの切りカキ位置がちょうどになるようにねじ込みが一定位置でロックされるようになっている。ドイツらしからぬ芸の細かさだ。
全体に愛でて楽しむのにいいが、それだけではなく、手になじむ形状と,適度な重さ、チタンの手触りはこのカメラを持ち歩く事を楽しくするに十分な逸品にしている。お散歩ブラパチカメラにはもってこいだ。もっともベンツSクラスに乗ってコンビニへ弁当買いに、みたいな空気だが...
唯一、機能面で通常のM9と異なるのは、ファインダー。フレームが赤いLEDで表示される点だ。これはなかなかいい。レンズ装着と電源スイッチオンで自動設定されるので、フレームセレクターレバーが正面になくなった。何よりも見やすい。これまでのM3以来の伝統のフレームは正面の白いアクリルの明かり取りから入る光で白く輝かせる「光学式フレーム」であった。これが光線との向きで見にくいのが問題視されて来たが,解決した訳だ。
ライカは感触を楽しむ趣味カメラなのだから,このM9チタンの出来は素晴らしく、趣味人をなかなか虜にさせてくれる。これまでのライカお得意の限定版商法ではあるが、この一品はかなり限定版として本格的に差異化を計っている。これからのライカレンジファインダーデジタルを暗示するスタイルだろう。
しかし、惜しむらくは、その手の届かない価格にふさわしいもっとデジタルカメラとしての機能のブラッシュアップ、強化充実を計って欲しいものだ。もっともコレを撮影現場でガンガン使う人はどれくらいいるのか。したがってこの際これ以上言うまい。まあ一言居士を黙らせるオーラを持っているよ、このM9チタンの工芸品としての造り込みへのこだわりは。