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2013年2月26日火曜日

最近の「時空トラベラー」御用達写真機事情 ーデジタルカメラの分かれ道ー

 スマホカメラとFacebookなどのSNSの普及に伴う、写真の「どこでも化(place shift)」、「いつでも化(time shift)」、「誰でも化(user generated contents)」には眼を見張るものがある。誰でも其の気になればアンリ・カルチェ・ブレッソンのように「決定的瞬間」が撮れる。ロバート・キャパのような「戦場写真」も市民のスマホからインターネットで配信される時代だ。豆粒のようなパンフォーカスレンズ(型押しプラスチック製)に極小センサー(これに500万画素を押し込んでいる)の組み合わせでも、普通の写真なら結構良く写る。カメラならわざわざ今日は「撮影するぞ」と意気込んで、鞄に詰め込んで外出しなければならない。スマホはいつもポケットに入ってる。しかもネットに常時繋がっている。キャンデットフォト革命だ。

 しかしこれは、「こだわり金属カメラ愛好家」、いや「守旧派」にとっては、憂慮すべき,嘆かわしい事態である。こんなカメラで事足れりとして欲しくない。いやこんなモノをカメラと呼ばないで欲しい。スマホやPCなどの液晶の小さな画面で一回観れば終わり、として欲しくもない。まして、スマホカメラ普及でデジタルカメラの売れ行きが低迷し,日本のお家芸であるカメラ産業が衰退して欲しくもない。

 そうしたカメラの商品としてのコモディティー化の動きの一方で、昨今、デジタルカメラも大きく進化し始めている。「写ればよい」、から徐々に枝分かれし、カメラ本来の持つ写真撮影の喜びを味わう、あるいはアート作品造りに貢献する製品が次々とリリースされ始めつつある事は喜ばしい事だ。写真のデジタル化に伴う二極化の動きが見え始めたようだ。日本のカメラメーカーの「カメラ」「写真」に対するこだわり、それを事業化する「企業家精神」はまだ健在だ。

 私はプロのフォトグラファーではないし、別にウデの良い自称「写真家」でもないが、カメラにはこだわりを持っているつもりだ。もともと銀塩写真機時代からのコレクターだし、「時空トラベラー」としての歴史を巡る旅にカメラは欠かせない。カメラの使用頻度も高い方だと思う。その「時空トラベラー」風景スナップの相棒は次の通りだ(言うまでもないが,全てのコメントはごく個人的な好みによる感想に過ぎない事をあらかじめお断りしておく)。


(1)Nikon D800E
 まず、「じっくり腰を据えて撮影」には、Nikon D800E+AF Nikkorレンズ群。フルサイズCMOSセンサーに、圧倒的な画素数とローパスレス化されたフィルター、高速画像処理エンジンによる、高精細、高解像、かつ豊かな諧調再現は風景写真に欠かせない相棒となっている。これさえあれば「なんもいらねえ〜」くらいだ。使用レポートは以前掲載したので割愛する。

(2)Fujifilm Xシリーズ(X-Pro1, X-E1, X100s, X20)
 お次ぎは、「ブラパチ散歩撮影」カメラ。デジタル一眼レフカメラ(デジイチ)ではチと大仰だというシチュエーション用だ。ここの選択肢が増えた事が,嬉しくもあり悩みの種でもある。どれにしようかな? 最近はもっぱら、FijifilmのXシリーズが主力である。このシリーズのカメラはどれも素晴らしい。レンズ交換式のX-Pro1, X-E1。これらは「じっくり腰を据えて撮影」機材にも充分なりうる。画素数こそNikonD800Eに比べれば少ないが、APS-Cサイズにローパスレスセンサーと最新の高速画像処理エンジン。秀逸なフジノンレンズ群。そして高品位な金属外装にユニークなハイブリッドファインダー(光学and/or電子ファインダー)もギミックではなく,ちゃんと実用的に使える。

 また、純正のライカMレンズ用マウントアダプターも用意されていて、Leica M9やM8ボディーに少しフラストレーション覚えている人にはうってつけだ。レンズの収差や歪曲を補正してくれる機能を利用する事も出来る。ライカレンズでライブビュー撮影出来る快感を味わえる。

 さらに35mm単焦点レンズ+APS-CサイズのCMOSセンサー搭載のX100と其の後継機種であるX100s。2/3センサー搭載のコンパクトズームX10と其の後継機種X20。どれも造りが良く愛用のカメラだ。今後の新ラインアップのリリースも楽しみなシリーズだ。Xシリーズについても過去にレポートしたので、これ以上の説明を割愛する。

(3)SONY Sybershot RXシリーズ(RX100,RX1)
 最近注目しているのはSONYのRXシリーズ、RX100とRX1だ。SONYは旧コニカミノルタのカメラ部門を買収し、本格的にスチルカメラに参入した。自前のセンサー開発技術による自社供給チップセットとあいまって、ユニークな製品が次々出てきた。αNEXシリーズなどは、APS-Cセンサー搭載のEマウントレンズ交換カメラ(いわゆるミラーレスカメラ)である。NEX-7は其のユニークなデザインと操作性で注目を浴びたが、正直、個人的にはあまり引かれない。レスポンスがよくない気がする。AF合焦速度、読み込み速度、いずれも不満足(ライカM9ほどではないが)。スナップ撮影時にフラストレーションが残る。また、ボディー形状がレンズに対して異様に薄くて小さい。これがデザイン上のユニークさなのだが、バランス、ホールドがいかがなものか。総じてソニーは軽小短薄にこだわっているようだが、カメラは小さければいいと言うものではない。ホールド性を高めるグリップ類も用意されていない(おそらくデザイン上のこだわりなのか)。不用意に触ってしまうボタン類には困りもの。特に動画撮影ボタンを知らないうちに押していて、気付くと延々と自分の足下と地べたが写っている、など観たくもないものだ(動画をオフにする事も出来ない。そもそも私にとってスチルカメラに動画は要らないから余計に)。

 1)SONY RX100
 Sybershot系列のRX100はカールツアイスの4倍電動ズームレンズのコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)。これは結構いい。こんな小さなボディーにコンデジとしては大きな1インチCMOSセンサーを搭載し、高画質な写真が撮れる。ボケ味もコンデジにしてはよい。しっかりした金属外装ボディーにも好感だ。風景ブラパチ写真家にとって、意外にもメインの機材になりうる。始めは、NEX-7の印象がイマイチだったのであまり期待していなかったが、使ってみて気に入った。

 難点は、スイッチオン、オフのレスポンスの悪さ。常時スイッチオンにしておかねば,いざという時に「決定的瞬間」を逃してしまう。スイッチオフしてからも、なかなかレンズが収納されない。イラッとすること度々... また売り物の鏡胴の外周リングのフィーリングにもクリック感やメリハリが無い。ヌメ〜としている。軍艦部がフラッッシュサーフィスなのはデザイン的にはいいのだろうが、シャッターボタンと電源ボタンを指で探す間にチャンスを逃したり、間違って電源ボタンを押してレンズが引っ込んでしまったり... ボディーはやはり小さすぎてハンドリングが悪いが、これはコンデジだから許そう。特にGARIZのケースを付けるとホールドが少し向上する。

 2)SONY RX1
 次に、話題のRX1。カールツアイスの35mm f.2ゾナーT*という豪華な単焦点レンズカメラだ。しかも2430万画素のフルサイズCMOSセンサー搭載のモンスターコンデジ。コンデジとは思えない高画質を楽しめる。これだけでも話題性充分だが、さらに24万円というプライスタグ! ハイエンドフルスペックデジイチ並みだ。これでも入荷が追いつかないほどの注文殺到だそうだ。世の中ホントに景気が悪いのか... 

 対抗馬は、先述のFijifilmのX100, X100sだが、こちらはAPS-CサイズCMOSセンサー。こちらも金属外装のクラシックなスタイルの高品位ボディーに明るいフジノンレンズで健闘していている。近接撮影にも対応。また28mmレンズアダプターがオプションにあり、35mmと全く同等の画質を維持出来る点は魅力的。RX1,X100sの両者は撮影結果に圧倒的な差がある訳ではないが、RX1はコンデジボディーに35mmフルサイズセンサー、というSONYの意地と根性を買う人用だろう。ちなみにFujifilm X100sの方は市場価格12万円程度とSONY RX1の半分。どう見る?

 RX1は、こじんまりとはしているが、剛性感のある金属外装に、太めのレンズ鏡胴というスタイル。レンズ一体型カメラであるために、レンズ設計、鏡胴設計に自由度が高く、フルサイズセンサーとの組み合わせによる高画質を極限化するとこういうバランスになったのだと設計者は言う。ややレンズサイズに対するボディーの小ささが気になる。手振れ補正機能も無いし、ファインダーも無いのでやはりホールド性に不安が。アクセサリーにMatch-Technical社のLeicMデジタル向けのフィンガーグリップにそっくりなパーツが用意されているが、ハンドグリップは用意されていない。これもデザイン重視だからか?

 ちなみに、このフィンガーグリップ、M-T社の特許、意匠侵害にはなってないだろうね,痩せても枯れても「世界のSONY」なんだから。もっとも、いくつかのボタンとレバーがこのグリップで隠れてしまわないように左右にフォールド出来るようになっているところや、アクセサリーシューから不用意に外れないようにロックがかかるようになっている点はさすがだ。オリジナルには無い改良の得意な日本製造業の面目躍如たるシロモノ(?!)。

 レスポンスはNEXシリーズに比べると良くなっている。また、不用意に動画ボタンを押してしまうミスをなくすために、動画オフ撮影機能がついた事は嬉しい。もっともNEXシリーズも6が出てより高速処理、レスポンスの向上が図られたようだ。やはりユーザからの不満が多かったのだろう。

 この圧倒的な単焦点レンズのボケ味や、高解像度を活かした写りには参るが、ただやはり私的「ブラパチ風景写真家」にとっては、ズームレンズは欠かせない。もちろんデジイチ+高倍率ズームを持ち出せばいいのだが、軽快にスナップを楽しむにはコンデジがいい。FujifilmとSONYの高級コンデジは超解像ズーム機能がついている。画質を損なわないで、光学ズームの倍率を補う、というデジタルズームで望遠撮影が手軽に楽しめるようになった事は嬉しい。RX1も単焦点カメラにも関わらず、20cmまでの近接撮影と、2倍までの(すなわち70mm)超解像ズームがついている。これはこれでいいが、画素数(LからSまでサイズダウン)を落としての望遠撮影にこれだけの高級単焦点カメラを使うのはやはり邪道だろう、と納得していない自分がいる。

 最後にバッテリーだが、RX100と共通の薄型。大丈夫か?やはり「満タン」表示は長続きしないようだ。予備バッテリーを持ち歩く事がおすすめとなる。ちなみに、充電はUSB経由でも出来る。


 以上が,最近気に入っている「相棒」カメラであるが、今後それぞれのカメラメーカーはどういう方向に進んで行くのだろう。NikonやCanonはハイエンド一眼レフ中心で行くのだろう。Leicaは次のMで、かなりデジタルカメラ度が上がるだろうが、まだ往年の光学レンジファインダーカメラの頂点の夢からは覚めきれないだろう。一方、SONYはそもそもどこへ行くのだろう。新しいコンセプトのカメラは挑戦的だが、カメラが本業のメーカーとは思えない。本業(家電?)が方向感を見失っているようだし、カメラをどのような立ち位置の商材とするのか、商品ラインアップ上の位置づけがよくわからない。やはり,今のところFujifilmがもっとも写真の老舗らしく、フィルム開発で培った画造りのノウハウと、光学技術に最新のデジタル技術を組み合わせてカメラの王道を極めるのだろう。カメラメーカーとしては後塵を拝してきたフィルムメーカの富士フィルムが、デジタル時代のハイエンド写真機造りをリードする。オモシロイ。このXシリーズは今後も多いに楽しみだ。

 ところで、私の理想の「ブラパチカメラ」スペックは次のようなものだ。
 1)金属外装の高品位コンパクトボディー(適度の重さとホールド感を維持した)。ポケットとは言わないが、常に鞄の中に入れて持ち歩ける事が大事だ。掌で転がして心地よいカメラ!
 2)画質には妥協はしたくない。ローパスレス・フルサイズセンサー(画素数は1600万画素以上であればよい)。
 3)24ー120mmくらいのf2.8の明るくて高品位なズーム(マクロ機能付き)レンズ。やはりズームは便利だ。開放ボケ味も欲しい。
 4)プログラムオートがあってもよいが、基本は絞り優先オートがあればよい。シャッタースピードセレクト、露出補正ともにクリック感のあるダイアル式で操作できること。
 5)測光方式は中央部重点(スポットがあればなお良い)。
 6)ファインダーは内蔵(外付けは邪魔だ)。ハイブリッド(電子/光学)がいい。
 7)電源立ち上げ、AF合焦、書き込み読み込みのレスポンススピードが速いこと。
 8)動画機能や使いもしないギミックの無い潔いカメラ。
 そしてもちろんコストパフォーマンスの良さが求められる事はいうまでもない。結構贅沢な要求だろう? 

 カメラ屋さんには使い手の感性をくすぐる「高品質、高付加価値商材」のプロデュース能力が求められる。使い手は,demandingな要求をドンドン作り手に突きつけて行く事が求められる。そして、作り手と使い手のそうしたインターアクションの結果、完成した良いものはドンドン買って、カメラ屋さんを元気にする事だ(もっとも、フトコロ的には最もハードルが高い要求だが... )!


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(Fujifilm X-Pro1。このハイブリッドファインダーを開発した技術者は天才か! あの越えられなかったLeicaMをはるかに越えている。レンズラインアップも益々充実して楽しみなシリーズ。改良バージョンが5月頃リリースされるとの報道も。)

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(Fujifilm X-E1シリーズ。X-Pro1の普及機版といわれるが、光学ファインダーを除けば、X-Pro1をファームウエアーでブラッシュアップした高機能版だ。サイズも一回り小さくなり取り回しがよい。ブラックとシルバーボディーが用意されている。純正マウントアダプターでLeicaMレンズが使える。)

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(Fujifilm X100s。X100の改良版。スプリットイメージファインダーにより、マニュアル撮影がよりやり易くなるなど、さらに「ファインダーによる撮影」にこだわった。新しい画像処理エンジンで高速かつ高画質処理。外見は変わらないが、中身が大幅に進化している)

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(FujifilmX20。X10の改良バージョン。シルバーボディーが加わった以外、外見は変わらないが、新しい画像処理エンジンでレスポンスの高速化、高解像度化が図られた。X10ではオマケっぽかった光学ファインダーにデジタル表示が加わり,より実用的なファインダーに変身した。他のコンデジに比べると少し大きな2/3サイズセンサー搭載とはいえ、依然小さなセンサーサイズだが、ユニークな画素配列とローパスレス化により、画質はフォーサース規格センサーと同等とうたう。)

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(SONY RX100。外見は他社のコンデジとあまり変わらないサイズと風貌だが、1インチCMOSセンサーを搭載した高画質コンパクト。外装にアルミ筐体を纏い高品位な手触り。レンズはカールツアイスのバリオゾナー。)

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(SONY RX1。カールツアイスの35mm F.2ゾナーT*単焦点レンズにフルサイズCMOSセンサー、というコンデジとは思えない高級仕様。お値段も高級!その分写りは最高!)

(写真はいずれもメーカーウエッブサイトから引用)