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2016年4月4日月曜日

大和路桜紀行(1)氷室神社・東大寺・若草山・春日大社

氷室神社のしだれ桜
奈良で一番に満開となる


 3月下旬から4月初め、毎年この季節になると、慌ただしくて心が落ち着かなくなる。木の芽時で精神状態が不安定になるからではない。年度末と新年度開始という会社人間にとって節目の時期であるという理由でもない。そう、今年は桜がいつ開花するのか?いつ満開になるのか?雨は降るのか?人出は如何に? ニュースと天気予報に食い入る毎日だ。桜を堪能できる時間は短い。その限られた時間で最大限桜を楽しもうという忙しさ。まさに桜狂想曲の始まりだ。連日SNSは桜の話題が満載だ。

 今年は3月20日頃に開花したものの、寒の戻り、冷たい雨などで、結局満開は4月に入ってから。2、3日の週末に一気に気温も上がり満開となった。しかし例年よりも遅い満開である。しかも、冷たい雨が金曜日に降った。花見宴会組には厳しい状況であった。

 私の今年の「日本の原風景、桜を求める旅」は奈良大和路と決定。いつも「桜紀行は京都へ」を考えないわけではない。今年も当然考えたがこの季節に京都の桜の名所は凄まじいことになることは想像に難くない。関西在住時には醍醐寺や嵐山、三尾の桜を楽しんだものだが、桜を見に行ったのか、人を見に行ったのかわからない混雑ぶりに突入するなら、何も京都くんだりまで足を伸ばさなくても東京の桜の名所で十分だ。基本的に、人出を避けて静かに桜花を愛でる、というこの時期相矛盾した条件を満たそうとするからいつも苦労する。大勢の人が出てワイワイやってる花見を楽しむのも一興だが、理想は人知れず咲き誇る山里の桜観賞なのだ。

 新大阪行きの新幹線車内、そして到着した京都駅構内、その外国人観光客の怒涛のような有り様を見れば、この時期に限って京都が私にとっては「心の旅」を求めて出かけるところではないことが理解できる。今話題の爆買い中国人御一行様ほか、韓流カップル韓国人御一行様、そしてナイコンを首から下げたバックパック欧米人御一行様も、今年は半端でなく発生している。新幹線のグリーン車はほぼ「欧米か」に占拠されていた。ちなみにめでたく「ジパング倶楽部会員」となった私は、3割引料金で「ひかり」のグリーンに乗れる特権を享受しているわけだが、考えることは皆同じ。シニア世代の団体、カップルが大勢グリーン車の客となっている。しかも訪日外国人はジャパンレイルウェーパス(昔ヨーロッパ旅行に必須の一等車に乗れるユーレイルパスと同じ)を持っているので、これまた団体、個人を問わず大挙して「ひかり」グリーン車に押しかけてくるというわけだ。

 この一団が申し合わせたように、ドット京都で下車する。「京都の桜も捨てがたい」という未練がましい迷いを振り払うことにする。ということで混雑「想定内」の京都を避け、やはり奈良大和路へ。京都駅から近鉄に乗り換えた。しかし、チと「奈良は意外に穴場」想定が甘かったことにすぐ気づかされることになる。今年の奈良はいつもと違った。奈良公園、大仏殿、春日大社などの定番スポットは、これまた外国人観光客に占拠されている。東大寺の駐車場には大型観光バスが列をなしている。道という道は大渋滞。いつもなら幅を利かせている関西弁も、ナンチャッテ「東京弁」も影を潜める。聞こえてくるのは北京語、広東語、台湾訛りの中国語、韓国語、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、それに不可思議なヨーロッパ諸国語ばかり。とうとう訪日外国人が年間2000万人を突破したというから、奈良ももはや「意外な穴場」ではない。観光客がみんな京都に吸い取られる時代は終わったようだ。いや京都から溢れ出始めたのかもしれない。経済効果としては嬉しいことだし、日本ファンが増えることも嬉しい。

 しかし、私の密やかなる楽しみ、心の大和路紀行が「観光客」に踏み荒らされるのはいやだ。外国人かどうかに関わらず、そもそも「観光客」というもの自体が、けたたましくも品がない。旅は人を開放的にするし、それはそれで良いのだが、ともすれば「旅の恥は掻き捨て」。受け入れる側もそんなこと分かっていて、「おもてなし」「Welcome!」「歓迎光臨!」といいながら、「金落とせ!」「Spend more money!」と、これまた品がない。日常を離れて非日常の世界を楽しむためにやってきたこの私、品格が服着てカメラ持っているような(!?)この私としては物欲煩悩の世界をここでも見せ付けられるのは楽しくない。旅という非日常の中、その土地の日常をひっそりと楽しみたいのだが。桜の季節は限られているだけにこうしたジレンマに苛まれることになる。どこかから「勝手な観光客はお前だろ!」という声が聞こえたような気がした。

 ともあれ、奈良で一番に開花、満開となる氷室神社のしだれ桜を観賞し、東大寺大仏殿脇の、いつもの二月堂への道を歩く。そこからは勝手知ったるルートで若草山、春日大社、春日若宮、禰宜の道をぬけて新薬師寺、高畑町界隈を散策。入江泰吉記念館は本日休館日。残念。ということで足早に奈良市内を後にして、翌日は当麻寺、明日香へ向かうつもりだ。さすがにここまでくると外国人観光客はいないだろう。もっとも近鉄桜井駅で、欧米観光客の一団がガイドに伴われて移動するところに遭遇してしまった。すごいな!何見に来たんだろう。まさか邪馬台国ツアーじゃないよな?! こうしてやがては穴場は穴場として有名になり、もはや穴場で無くなって行く。

柳の新緑が美しい大仏殿

大仏殿参道

二月堂へ向かう道
コブシの巨木

二月堂へ向かう道
南大門、大仏殿の喧騒を離れて静かに散策できる

若草山から大仏殿

興福寺五重塔が

春日若宮
椿が盛りだ


春日大社の燈籠
新薬師寺への道
レンギョウの黄色が桜と良いコントラスト
ここまで来るともはや観光客の姿はない