Strand Bookshop in Soho |
ニューヨークにいた時、35丁目とMadison Avenueとの角に、その名もThe Complete Travellersという古書店を発見。 ウエッブサイト(http://www.ctrarebooks.com/)で見る限り、旅行に関する結構な稀書コレクションを持っており、Japanのセクションだけでも19世紀後半から20世紀初頭のものを並べている。Lafcadio HearnやIsabella Birdも並んでいる。なんと私向きな本屋だ、と早速仕事の帰りに寄ってみた。
オフィスからはPark Avenueを南へ5ブロック。このあたりはMidtownでもMurray Hill地区。ちょっとロンドンのCharing Cross Roadのあたりに雰囲気が似ている。 店は交差点に位置しており、古書店にありがちな入りにくい雰囲気ではなく気さくに歓迎してくれた。
早速Japanのコー ナーを物色する。するとやはりあるじゃないか。Kwaidan(怪談)のNY初版本だ。さらに、店員の青年にIsabella BirdのUnbeaten Tracks in Japan(日本奥地紀行)が店のウエッブサイトにはあったことを伝えると、すぐに探しだしてくれたので、それも購入することにした。なんと全部で$500! この間出張で訪れた松江で旧小泉八雲邸に立ち寄ったら,同じ本が展示されていた。またUnbeaten Tracks in Japanはヨーロッパ人やアメリカ人の間でアジアの探検旅行がブ−ムとなった19世紀末から20世紀初頭の人気旅行記で、最近日本でもその翻訳本が出されたようだ。日光の金谷ホテルにも展示されていた。
ロンドン時代、Charing Cross RoadやBritish Museum, Russell Squareあたりに数多くあったアンティークブックショップを回り、装丁の綺麗な本や、明治の頃の日本旅行関係の本を探したり、アンティークマップをあさったりするのが週末の楽しみだったのを思い出させてくれた。特にアンティークマップは、地域別の箱にぎっしり詰め込んであって,好きなの探して持ってけ,という雰囲気であった。その中からお宝を探し出すのだ。また大抵、そうした店の隣には,買った古地図をフレームに入れてくれる額装専門の店もあって、待ってる間にちゃっちゃっと仕事して、意外なほど安い価格で仕上げてくれる。
イギリスは、さすがにそういった古書やプリント類の宝庫だ。ケントやサセックスなどの郊外のManor Houseを訪ねると,たいがいの館に自慢げにインドや中国や日本のアンティークコレクションが並んでいる。そしてこれまた壁一面の書棚には、必ずと言ってよいほど立派な装丁の本がぎっしりと並んでいる。旅行関係や地理,歴史、植物に関する本が多い。これは19世紀、当時のイギリスの上流階級や実業家がそろって七つの海をまたがる大英帝国内を旅行して回ることをステータスとしていたことの現れである。ことに日本は帝国の版図外(Far East)であり、極東にあってなかなか行く人も少なかったので、日本関係の本や陶磁器や武具甲冑、仏像を所有していることは、さらにステータスを引き上げる効果を有していた。こうした所から流れ出す書籍やプリントが店頭に並ぶ訳だ。
アメリカはその点,やはり歴史が浅い国だといわざるをえない。NYにも古書店や古地図の店がいくつかはあったが、店の数、そのコレクションはイギリスロンドンのそれには及ばない。希少本コレクションを有している店も幾つかあるようだが、高級ブティックみたいに敷居が高く事前予約制でしか店にも入れてくれない。やはり歴史の違いだ。British Museum とMetropolitan Museumの収蔵品の違いを見ても理解できる。
First Avenue/37th Streetのアパートからもちょうど良い距離なので、週末になってぶらりと散歩がてら、また行ってみた。今度は店主らしいそれっぽいオヤジがいて、めがねの上から私を見ながら「なにか助けが必要だったら言ってくれ」と。この鼻眼鏡って、古書店のなにか共通のアイコンもたいなものだ。
しばらく店内を見回ってから「アンティークマップはないか」と聞いたら、良く聞いてくれた,とばかり「勿論あるさ、あそこがアメリカ、あっちがその他の世界」と自慢げに教えてくれた。ストックはロンドンのCecil RowのAntique Maps and Printsの店には及ぶべくもないが、一応それなりのものがある。当然かもしれないがアメリカの州や都市の地図が多い。また相対的に年代が新しいものが多く、19世紀後半から、20世紀前半、という感じだ。残念ながら16-7世紀の大航海時代のものはなさそうだ。日本の地図もある。ちょうど明治維新直後の時代の地図だ。
ロンドンのBritish Museum正門前の古書店でAbraham OrteliusのThe Theatre of The Worldの復刻版(これ自体がアンティーク本)を見つけたときには興奮した。とても持ち帰ることは出来るシロモノではない重さだった。店主は「送ってやるよ」と言ったが,見つけたものはすぐに自分で持って帰りたい人だから,駐車場に停めてあった車のとこまで、うんうん唸りながら担いで行ったことを覚えている。また、The CityのRoyal Exchangeのなかにも古書店があって、そこで16世紀末のベルギーのCartographer(地図製作者)Jan JansenのIaponia図を発見した。安土桃山時代の日本地図。先ほどのThe Theatre of The Worldにも含まれているOrteliusの原画を元に、航海者が持ち帰る新しい情報に基づいてアップデートしたものだ。オリジナルのカラーペイント版で額装すると素晴らしい。ロンドンキャブで自宅へ運んだ。今も我が家のお宝だ。
さて、小一時間見て回った後、結局地図ではなく、NY関連書籍のコーナーでWashington IrvingのHistory Of New Yorkを見つけた。装丁もしゃれているので先ほどのオヤジに故事来歴を聞いたら、「Washington Irvingを探しているのか?」と。別にそれの特定しているつもりはないのだが「まあ、旅行関係が好きで、色々面白いのがたくさんあったけど、今日はこれが面白そうなので」というと、「ちょっと待て。こっちへ」といって奥へ連れて行き、鍵のかかった書棚に鎮座ましましているとっても美しい装丁の彼の著作、Story of Travel2分冊を出してきた。これはほとんど保存状態が良い。いわゆるdead stockだったのかもしれない。1896年の版でなかの挿画やデザインが素晴らしい。300ドルもするが、オヤジの説明だと発行部数が限られている稀少本であるし、あまりに魅力的なルックスだったのでふらふらと買ってしまう。オヤジは商売がうまい。というか,私は意志が弱い。
また「Japanの旅行記にも興味があるけど、ここにあるだけか?」とやや挑発的に聞いたら、また「ちょっと来い」とさらに奥の鍵のかかった書棚へ。そこには稀少高価本が収められている。値札はついていない。オヤジは「別に買わなくてもいい。コレクションを見てくれ」と。出してきた幾つかの本のなかの一冊が、1914年、第一次世界大戦時に出版されたJapanese Empireというコンパクトな旅行ガイドブック。日本が史上最大の版図を維持していた時代の地図が挿入されており、誇らしく朝鮮半島、台湾、南樺太、千島列島全域が赤く塗られているではないか。また保存状態の極めて良い帝都東京の細密な都市図、日本列島各都市の詳しい地図も挿入されている。コリャいかん。また欲しくなった。値段を聞くと,オヤジはニヤリとして「300ドルだ」。数千ドルの希少本を見せた後で、私の心底を見透かすかのように... しかし、これはきっぱり断って店を出た(もっとも後でやっぱり購入してしまうが)。
このオヤジ、さすが古書店店主という風貌で、また、それなりに幅広い知識を持っているのに感心した。饒舌ではないが、話しが面白い。文学,哲学からアートブックまでどんなテーマでもこなせそうな感じだ。イギリスのケンブリッジの古書店では、ケンブリッジ大学で古楽器演奏で学位取った、なんてオヤジに出会ったことがある。また,ケントの田舎町の古書店では、かつて外航船の船長で世界中を回ったという、精悍な顔つきの店主に出会ったこともある。なんかどれも雰囲気や人品骨柄が似ている。みな鼻眼鏡だし... このNYの店主もきっとどこかのPhD.くらい持ってたり、世界を旅して回った経験があるのかもしれない。今度聞いてみよう。
時空を超えた膨大な歴史遺産に埋もれて暮らす古書店店主。本当のインテリ趣味人の究極の職業かもしれない。こりゃいい。第二の人生を是非こんな「知」のラビリンスで過ごしてみたいものだ..... キット金持ちにはなれないだろうがQuality of Life を楽しむことは出来るかもしれない。時空トラベラーの安息の場所を見つけた。
オフィスからはPark Avenueを南へ5ブロック。このあたりはMidtownでもMurray Hill地区。ちょっとロンドンのCharing Cross Roadのあたりに雰囲気が似ている。 店は交差点に位置しており、古書店にありがちな入りにくい雰囲気ではなく気さくに歓迎してくれた。
早速Japanのコー ナーを物色する。するとやはりあるじゃないか。Kwaidan(怪談)のNY初版本だ。さらに、店員の青年にIsabella BirdのUnbeaten Tracks in Japan(日本奥地紀行)が店のウエッブサイトにはあったことを伝えると、すぐに探しだしてくれたので、それも購入することにした。なんと全部で$500! この間出張で訪れた松江で旧小泉八雲邸に立ち寄ったら,同じ本が展示されていた。またUnbeaten Tracks in Japanはヨーロッパ人やアメリカ人の間でアジアの探検旅行がブ−ムとなった19世紀末から20世紀初頭の人気旅行記で、最近日本でもその翻訳本が出されたようだ。日光の金谷ホテルにも展示されていた。
ロンドン時代、Charing Cross RoadやBritish Museum, Russell Squareあたりに数多くあったアンティークブックショップを回り、装丁の綺麗な本や、明治の頃の日本旅行関係の本を探したり、アンティークマップをあさったりするのが週末の楽しみだったのを思い出させてくれた。特にアンティークマップは、地域別の箱にぎっしり詰め込んであって,好きなの探して持ってけ,という雰囲気であった。その中からお宝を探し出すのだ。また大抵、そうした店の隣には,買った古地図をフレームに入れてくれる額装専門の店もあって、待ってる間にちゃっちゃっと仕事して、意外なほど安い価格で仕上げてくれる。
イギリスは、さすがにそういった古書やプリント類の宝庫だ。ケントやサセックスなどの郊外のManor Houseを訪ねると,たいがいの館に自慢げにインドや中国や日本のアンティークコレクションが並んでいる。そしてこれまた壁一面の書棚には、必ずと言ってよいほど立派な装丁の本がぎっしりと並んでいる。旅行関係や地理,歴史、植物に関する本が多い。これは19世紀、当時のイギリスの上流階級や実業家がそろって七つの海をまたがる大英帝国内を旅行して回ることをステータスとしていたことの現れである。ことに日本は帝国の版図外(Far East)であり、極東にあってなかなか行く人も少なかったので、日本関係の本や陶磁器や武具甲冑、仏像を所有していることは、さらにステータスを引き上げる効果を有していた。こうした所から流れ出す書籍やプリントが店頭に並ぶ訳だ。
アメリカはその点,やはり歴史が浅い国だといわざるをえない。NYにも古書店や古地図の店がいくつかはあったが、店の数、そのコレクションはイギリスロンドンのそれには及ばない。希少本コレクションを有している店も幾つかあるようだが、高級ブティックみたいに敷居が高く事前予約制でしか店にも入れてくれない。やはり歴史の違いだ。British Museum とMetropolitan Museumの収蔵品の違いを見ても理解できる。
First Avenue/37th Streetのアパートからもちょうど良い距離なので、週末になってぶらりと散歩がてら、また行ってみた。今度は店主らしいそれっぽいオヤジがいて、めがねの上から私を見ながら「なにか助けが必要だったら言ってくれ」と。この鼻眼鏡って、古書店のなにか共通のアイコンもたいなものだ。
しばらく店内を見回ってから「アンティークマップはないか」と聞いたら、良く聞いてくれた,とばかり「勿論あるさ、あそこがアメリカ、あっちがその他の世界」と自慢げに教えてくれた。ストックはロンドンのCecil RowのAntique Maps and Printsの店には及ぶべくもないが、一応それなりのものがある。当然かもしれないがアメリカの州や都市の地図が多い。また相対的に年代が新しいものが多く、19世紀後半から、20世紀前半、という感じだ。残念ながら16-7世紀の大航海時代のものはなさそうだ。日本の地図もある。ちょうど明治維新直後の時代の地図だ。
ロンドンのBritish Museum正門前の古書店でAbraham OrteliusのThe Theatre of The Worldの復刻版(これ自体がアンティーク本)を見つけたときには興奮した。とても持ち帰ることは出来るシロモノではない重さだった。店主は「送ってやるよ」と言ったが,見つけたものはすぐに自分で持って帰りたい人だから,駐車場に停めてあった車のとこまで、うんうん唸りながら担いで行ったことを覚えている。また、The CityのRoyal Exchangeのなかにも古書店があって、そこで16世紀末のベルギーのCartographer(地図製作者)Jan JansenのIaponia図を発見した。安土桃山時代の日本地図。先ほどのThe Theatre of The Worldにも含まれているOrteliusの原画を元に、航海者が持ち帰る新しい情報に基づいてアップデートしたものだ。オリジナルのカラーペイント版で額装すると素晴らしい。ロンドンキャブで自宅へ運んだ。今も我が家のお宝だ。
さて、小一時間見て回った後、結局地図ではなく、NY関連書籍のコーナーでWashington IrvingのHistory Of New Yorkを見つけた。装丁もしゃれているので先ほどのオヤジに故事来歴を聞いたら、「Washington Irvingを探しているのか?」と。別にそれの特定しているつもりはないのだが「まあ、旅行関係が好きで、色々面白いのがたくさんあったけど、今日はこれが面白そうなので」というと、「ちょっと待て。こっちへ」といって奥へ連れて行き、鍵のかかった書棚に鎮座ましましているとっても美しい装丁の彼の著作、Story of Travel2分冊を出してきた。これはほとんど保存状態が良い。いわゆるdead stockだったのかもしれない。1896年の版でなかの挿画やデザインが素晴らしい。300ドルもするが、オヤジの説明だと発行部数が限られている稀少本であるし、あまりに魅力的なルックスだったのでふらふらと買ってしまう。オヤジは商売がうまい。というか,私は意志が弱い。
また「Japanの旅行記にも興味があるけど、ここにあるだけか?」とやや挑発的に聞いたら、また「ちょっと来い」とさらに奥の鍵のかかった書棚へ。そこには稀少高価本が収められている。値札はついていない。オヤジは「別に買わなくてもいい。コレクションを見てくれ」と。出してきた幾つかの本のなかの一冊が、1914年、第一次世界大戦時に出版されたJapanese Empireというコンパクトな旅行ガイドブック。日本が史上最大の版図を維持していた時代の地図が挿入されており、誇らしく朝鮮半島、台湾、南樺太、千島列島全域が赤く塗られているではないか。また保存状態の極めて良い帝都東京の細密な都市図、日本列島各都市の詳しい地図も挿入されている。コリャいかん。また欲しくなった。値段を聞くと,オヤジはニヤリとして「300ドルだ」。数千ドルの希少本を見せた後で、私の心底を見透かすかのように... しかし、これはきっぱり断って店を出た(もっとも後でやっぱり購入してしまうが)。
このオヤジ、さすが古書店店主という風貌で、また、それなりに幅広い知識を持っているのに感心した。饒舌ではないが、話しが面白い。文学,哲学からアートブックまでどんなテーマでもこなせそうな感じだ。イギリスのケンブリッジの古書店では、ケンブリッジ大学で古楽器演奏で学位取った、なんてオヤジに出会ったことがある。また,ケントの田舎町の古書店では、かつて外航船の船長で世界中を回ったという、精悍な顔つきの店主に出会ったこともある。なんかどれも雰囲気や人品骨柄が似ている。みな鼻眼鏡だし... このNYの店主もきっとどこかのPhD.くらい持ってたり、世界を旅して回った経験があるのかもしれない。今度聞いてみよう。
時空を超えた膨大な歴史遺産に埋もれて暮らす古書店店主。本当のインテリ趣味人の究極の職業かもしれない。こりゃいい。第二の人生を是非こんな「知」のラビリンスで過ごしてみたいものだ..... キット金持ちにはなれないだろうがQuality of Life を楽しむことは出来るかもしれない。時空トラベラーの安息の場所を見つけた。
Orteliusの日本地図 |