ついにやって来た!Nikon Df! 厳かな箱に入った新たな守護神の降臨だ!「開封の儀」ももどかしく開封。ちょっと肥満体型になったFM3がそこに鎮座ましましている。寒い外気に冷やされて配送されてきたフュージョンの神は、触れるとひんやりして液晶画面がたちまち曇った。一眼レフの象徴である誇らしげなペンタ部と、そこに刻印されたNIKONのロゴは、由緒正しきF3の血統を受け継ぐものだ。これぞカメラの天ツ国から降臨した、まごうこと無き「天孫族」の子孫。しかし、こうして下界に下りたからには磐座に鎮座するのではなく、「山河を跋渉して寧所にいとまあらず」の活躍を期待される神だ。ちなみに、このDfを下界に勧請するにあたり、これまで守護神であったDXフォーマットのNikon D300ボディー+AF Nikkor28-300DXのセットを下取りに。天上界へお返しした。永らく我が写真道をお導きいただき感謝。
(ニコンDfカタログより)
まず手に持つと、思ったより軽い。Leica M240より軽い。そのゴツゴツとしたメカニカルな形状からは想像できない。そして、シャッター音が軽快で静か。セクシーな響きが撮影の満足感を満たす。さらに軍艦部のアナログな操作系が写真撮る意欲をかき立てる。露出補正ダイアルが左にあって、右手親指でクリック操作できない不便さも、Fシリーズからそのまま継承されている!しかし、背面液晶パネルでのデジタルの操作性も確保。その形状イメージに比べ、グリップがむしろ小さい感じ。D800の握りの感触と比べるからだが、往年のF3やFM3を考えるとホールドは良い。ファインダーは明るくて見やすい。ミラーレスのようなEVFではなく正当な光学プリズムファインダーだ。マニュアル撮影でピント合わせが楽だ。しかし、ちゃんとフォーカスアシスト機能もついている。
そして、ワクワクするのは、フィルム時代のAi Nikkorレンズ群の撮影現場への再登板だ。F3, FM,FEで活躍したレンズが生き返る。AFデジタル族に滅ぼされた銀塩マニュアルフォーカス族たちがよみがえる。もちろんD4やD800でも使えるのだが、Dfのデザインは、わざわざ旧ニッコールを装着するために生まれて来たようなものだ。お気に入りは、Ai Nikkor 50mm f1.2。早速装着して試写。開放のボケが何とも言えない。これはまだ現行レンズだ。これより古いAuto Nikkor 55mm f1.2も使える。話題をさらった35−70mmのクラシックズーム(通称ヒゲ)も使える。稀少な105mmf1.8の太い鏡胴が不思議なフィット感を醸し出す。発売当時、大人気で品薄だった28−85mmズームは、まるでDfの登場を予測していたかのごとき絶妙のバランス感だ。「ニッコール千夜一夜」に登場するニコン技術史のランドマーク的レンズ群がデジタルで復活する。
驚いたのは、フィルム時代の設計のレンズがフルサイズCMOSセンサーでとても味のある写りをしていること。コントラストでは最新のナノクリスタルコートレンズに一歩譲るにしても、決して古さを感じない。むろんノスタルジックなテイストではあるが、むしろ単焦点レンズの味、ズームにはない新鮮な写真表現を再認識させてくれる。なによりもそのレンズ鏡胴の細身で金属質な造りが懐かしい。フラッグシップカメラD4と同じセンサー、画像処理エンジンを搭載している。D4と比較したことは無いが、画質は非常に私好みのしっとりしたものにチューンされている。画素数を少なくしたフルサイズセンサーだけに、一画素あたりの光量が確保できているので、諧調、高感度特性に優れる、ってスペックを語る人も多い。その通りだが、むしろ余裕のあるCMOSセンサーを往年のMFレンズでも十分に生かしきれるところがうれしい。
よくニコンは、かたくなにFマウントを守ってくれたものだ。知らず知らずに防湿庫に蓄積されたレンズ達が、過去のものとしてジャンクにもならなず、我が家のレンズ資産として価値を維持し続けてくれることに感謝する。これはライカのL/Mレンズ群も同じだ。マウントアダプターも楽しいが、どこか邪道感に苛まれる。写真って、ロジカルなものではなくイモーショナルなものだ。ともすれば技術オリエンテッドでスキの無い合理性を追求して来た印象のあるニコンだが、そのDNAを活かしつつも、ユーザのノスタルジックな感性を呼び起こさせてくれるDf。大いに歓迎する。まさに温故知新の「時空トラベラー」カメラだ。
(早速、Ai Nikkor 50mm f1.2絞り開放で撮影。ピントは来てるがふわふわした紅葉の輪郭とボケが独特だ)
(同じシーンを,最新のAF-S Nikkor 28-300mm Gで撮影。やはりシャープでそつのない画造りだ)
(以降は最新28−300mmで撮影。皇居お堀端の光景。望遠側で撮影した鷺と鵜のシルエットもさすがにシャープ)
(日比谷通りを望遠側で撮影。グリップが少し小さいが望遠手持ちでもホールド感は悪く無い。)
(皇居東御苑の松と石垣のコントラストと、ほんのりとしたグラデュエーション。諧調豊かなデジタル「フィルム」の為せる技。)