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2025年5月1日木曜日

五島美術館探訪 〜崖の上の邸宅、庭園、茶室〜

 

古老門


五島美術館は、東急電鉄、東急グループの創設者、五島慶太翁(1882−1959)が建てた上野毛の邸宅跡を活かした美術館である。翁が戦前から戦後にかけて収集した日本と東洋の古美術をもとに構成されており、収蔵品総数は国宝5点、重要文化財50点を含む約5000点にのぼると言う。また敷地内には大東急記念文庫もある。この上野毛一帯は広大な敷地を有する豪邸が多く、この美術館もその一角をなす。敷地は6000坪である。美術館の建物は吉田五十八の設計で、寝殿作りの要素を現代建築に取り入れたもの。常設展はなく、すべてが企画展だそうだ。当日は「春の優品展」THE BESTと銘打って五島翁の銘品コレクションを一堂に展示した豪華な展示であった。中でも国宝「源氏物語絵巻」同じく国宝「紫式部日記絵巻」の写本は圧巻である。飛び石連休期間の谷間の平日であったが、お天気も良く行楽日和の一日。多くの鑑賞者で賑わっていた。やはり中高年が多かったが。

ここは多摩川が武蔵野台地を侵食してできた断崖の上に位置する。この武蔵野の面影が残る自然環境をそのまま生かし、そこに邸宅、庭園が築かれている。庭園には「古経楼」「富士見亭」の二つの茶室がある。回遊式の庭には、二つの池、大日如来など石仏、石塔、石灯籠や門が配されている。ただこれを見て回るのは結構体力を要す。断崖の庭園というだけあって高低差が35mというちょっとした低山ハイキングばりの健脚コースだ。散策は高齢者が多いことにも配慮して、階段には手すりが設けられ、遊歩道に敷石を引き詰めれれている。また本館のある台地上まで戻らなくても、一番下まで降りると、そのまま二子玉川駅へ抜けれる出口が設けられている。五島慶太翁はここで足腰を鍛えていたのであろうか。桜の古木が有名だそうだが、その季節は過ぎ、ツツジも終わりでショウブの季節の始まりである。新緑が眩い庭園をゆっくりと散策する。見晴台からは富士山も展望できるという。この日は見えなかった。都会にいてちょっとしてトレッキング気分である。

自然の武蔵野崖線と武蔵野の雑木林をそのまま生かした庭園は、まさに18世紀イングランドの美学者ウィリアム・ギルピン、ユヴデール・プライスの風景論、庭園論に現れる「崇高」と「美」、そして「ピクチャレスク」の世界である。人工物である茶室や石塔なども、経年変化による自然との融合が具合よく進み、良い佇まいである。時間の経過による自然と人工の曖昧さ。詫び、寂び、美しい古び。それが人口稠密で極度に近代合理主義的、資本主義的論理で再開発されたメトロポリス、東京に古い日本の痕跡のように残されている。こうした日本庭園の美的感覚はプライス、ギルピンにとって共感するものが大いにあるだろうが、この21世紀の東京の景観をどのように評するのか、その評価を聞いてみたいものだ。果たして「ピクチャレスク!」と叫ぶだろうか。




美術館玄関

吉田五十八設計の本館



この界隈には広大な敷地を有する邸宅が


天佑庵門

茶室「古経楼」

茶室「富士見亭」



藤の季節は終わっている


赤門










(撮影機材:Nikon Z8 + Nikkor Z 24-120/4 展示室内は撮影禁止)