ページビューの合計

2009年11月8日日曜日

Leica M9 我が戦列に加わる!

とうとうM9がやってきた。
悩んだが選んだのはスチールグレーではなく,ブラックペイントボディーだ。

外見の違いはあまりなくて拍子ヌケするくらいだ。強いてあげれば、軍艦部の撮影枚数/バッテリー表示用の丸い液晶表示窓がなくなって、アナログMライカで継承されてきた巻き戻しクランク部の段差が復活した。別に機能的な意味はないがライカMシリーズを愛用してきたファンへのサービスみたいなものだ。その他はライカロゴマークがM8.2では黒であったのが赤に変わったことくらいで基本的にはM8とおなじ。あっ、あとアクセサリーシューがシルバーになってる。

中身だが、一番の変更点は,もちろん撮像素子が1800万画素フルサイズCCD(Kodak製は変わらずだが)となったことだ。つまり、M8がAPS-HサイズCCD(レンズ焦点距離が表示の1.3倍になる)であったのに対し、35mm判フィルムサイズ、すなわち「ライカ判」になった。これはライカ愛国主義者にとっては、他国に奪われし故国を取り戻したようなエポックメイキングな出来事なのだ。これで銀塩35mmフィルム用のM3、4、5、6、7などで使っていた従来からのライカレンズ資産(Mであれ,マウントアダプターを介してLであれ)がほぼ全てオリジナルの焦点距離で使えるようになったという事だ。50mmは50mmで、35mmは35mmで.....

実用的には50mm標準レンズが1.3倍の65mmの焦点距離となっても、それはそれで使いこなせるのだが,ライカ愛国主義同盟にとってそんな妥協は許されない。ライカのデジタルカメラが「ライカ判」を取り戻したことが画期的なのだ。いわば家元の権威を守ったことになるのだ。

これまでのM型ライカのボディー形状をほとんど変えることなく(デジタルになってちょっとメタボボディーにはなったが)フルサイズCCDを搭載したのだ。短いフランジバック(レンズ後端からフィルム面(撮像素子面)までの長さ)を大きく変えることなくデジタル化し、さらにフルサイズ化する。これはやはりドイツ人職人魂の勝利だろう。あくまでもレンズ資産を大事にするライカ愛国主義者の熱い支持を裏切らないボディー造りには技術的な格闘があったにちがいない。明らかにゼロからデジタルカメラを作り変える方が設計の自由度があって楽だっただろうと思う。

デジタル一眼レフですらライブビューを導入しているのに、あくまでも光学式のレンジファインダーにこだわり、ご丁寧に電池とメモリーカードの装填に、フィルム時代の底蓋を開けてフィルムの装填をするあのめんどくさい方式をユーザに強いたり。ライカならではのお作法を守る本家ライカ流家元の伝統をしっかりと受け継いでいる。

ライカ社はM9を「世界最小のフルサイズデジタルカメラ」とうたってる。ライカ愛国主義者同盟にとっては「世界最小」かどうかはどうでも良いことだ。むしろそんなことを日本製の高機能デジカメとの差異化要因としてキャッチコピーに使っていることには「怒っている」というよりは「笑ってしまう」。

このようにライカはニコンやキャノンとは異なる道具なのだ。決して比較などしてはならない。機能が劣っているとか、使いにくいとか、不合理だとか。そんなことが気になる人は使うなよ,という態度の人だけがライカ愛国主義者になれる。「こだわり」には時として合理性を超えた価値が含まれていることがあるんです。

さて、M9で,その他の改良点や気付いたところを箇条書きにしてみる。

1)レンズの6ビットコードの光学的自動読み取りはそのままだが、各種のレンズ情報がプリインストールされてマニュアルで選択、設定出来るようになった。これはいい。アナログ時代のレンズ資産を大事に使っているライカ主義者へ敬意を払うのであれば,ある意味当然の機能であろう。もっとも、いまだにこのレンズ情報を設定することによって何が変わるのかイマイチよく分からないが。

2)相変わらずローパスフィルターは省かれており、それがライカデジタルらしいクリアーでヌケの良い画像造りに寄与している。M8で問題になっていたマゼンダかぶり防止用のフィルターはボディー内の撮像素子前面に取り付けられ,レンズの前にいちいち変な色のフィルターを装着する必要がなくなった。これもM8からの改良だ(が、そもそもマゼンダかぶり起こすこと自体は欠陥なんじゃないのかな?)。

3)ISO感度設定ボタンがつきやりやすくなった。またISO80から2500まで選択出来る。実用的な感度もM8では320までで、それ以上だとノイズが目立って使う気になれなかった。M9では1000までなら使える。

4)露出補正がファインダーのぞきながらダイアルで設定出来るようになり、液晶画面上での設定と選択出来るようになった(M8でもファームウェアーバージジョンアップでダイアルでも可能となったはずだが,シャッターボタン半押しのタイミングが合わないととても設定が難しかった。何故なんだろう?)。これは使い勝手が向上した。

5)シャッター(音)の種類が4種から選択可能となった。しかし「静音」モードもそんなに明らかに静かかどうか.....ライカM3の横走り布幕フォーカルプレーンシャッターの、あの感触ではない。ディレーモードも日本のカメラメーカーの発想ではないなあ。

6)M8.2で「売り」であったスナップショットモードがなくなった(正確に言うとソフト的に選択する方式となった為、シャッターダイアルから「S」がなくなった)。そもそもこんなまやかしのスナップショットモードが保守的なこだわりライカ主義者にウケるとでも思ったのだろうか? 意図がわからん。まあとにかく視界から消えてよかった。

7)オートブラッケティングが設けられた。これは改良だ。今までなかったのが不思議だが。

8)バッテリー残量、撮影枚数(SDカード残量)はINFOボタンで液晶画面で確認するようになった。撮影枚数は時々ボタンを押して確認しないと,突然SDカードフルになり撮影がストップしてしまう。バッテリーの減り方が早くなったようだ。ちなみにこの画面だけがカラー表示なのは何故? 

全体としてより完成度が高まりつつある(「高まった」とまでは言えない)感じだ。くらべちゃいけない,と言いながらついつい日本製のデジ一とくらべてしまうが、ソフトウェアーに手を入れることで追加出来る機能はいろいろあるはずなのに何故やらないのかな。例えばニコンのアクティブDライティングのようなダイナミックレンジを拡張する機能を追加するのは難しいのだろうか?せっかくレンズ情報を読ませる仕掛けを持ってるんだから、これを使った新機能をファームウェアーアップデートで追加してくれるとうれしいのだが。

同梱の画像処理ソフトがAdobe Photoshop Lightroom となったことは歓迎だ。Capture One(この日本語表示は意味不明が多い)よりは遥かに使い勝手がよいことは言うまでもない。また本体の画像エンジンに手が加えられたのであろう、画像の彩度が上がってよりビビッドな色調になったようだ。私好みだ。しかし,相変わらずホワイトバランスが不安定で、特にオートにすると暴れがち。条件によってはとんでもない色調に飛んだりする。これって何とかならないのか。ソフトウェアーで改良出来るんじゃないのかなあ? パソコンでLightroomで修正しろってことですか?あと、画像の読み込み速度が(特にRaw+JPEG Fineや連写で)遅いが、まあ、これ以上ニコンやキャノンと比べるのは止めとこう。

とにかく,今風の性能スペックや操作性よりも道具としての物理的な感触(とりわけ真鍮削り出しの堅牢な軍艦部)や、所有欲を満たすステータスで存在感を主張するカメラだ、ということだろう。もちろん「うまく撮れたときの」ライカ写真の息をのむ素晴らしさが一番の魅力だが。ライカ社はアサカメのインタビューなどで、性能的にも他社のデジ一と遜色ないレベルになった,と言っているが、ううん.....そうかなあ.....

ライカMレンズ群の「味」はなかなか他社の追随を許さない。それを遺憾なく発揮させるボディーはやはりライカMシリーズしかない。特にフルサイズ化した意味は大きい。であるが故にその伝統のシステムとそれを支えるプラットフォームにこだわると操作感に一歩譲る点がどうしても出てくる,という事なのだろう。しかし,それは欠点ではなく違う種類の楽しみを与えてくれる道具であるということに行き着く。レンジファインダーはプリズムや液晶を通して観るのではない,もう一つの「眼」を提供してくれるのだし、使いにくさは「道具を操る喜び」を与えてくれる。そして「ライカ流写真術のお作法」の楽しみを与えてくれる。それを愛する人こそライカ愛国主義者といえる。またそういって自分の選択を正当化するのがライカユーザでもある。